阿川佐和子氏が150万部のベストセラー『聞く力 心をひらく35のヒント』(文春新書)に続き今年6月、新著『叱られる力 聞く力2』(文春新書)を刊行した。阿川氏になぜ今、若者は叱られ下手なのか、そして大人は叱り下手になってしまったのかを聞いた。
──いまの日本のような社会状況では、叱り、叱られる経験は大切ですよね。
阿川:人間、時には感情的になることも大事だと思います。喜怒哀楽をバランスよく出すことが大事なはずなのに、今の人は面と向かって怒と哀を出さないほうがいいと思っているように見えます。
叱られたらワンワン泣いて構わない。ひどい上司だと思ったら、泣きながらでも本人や同僚に意見を求めればいい。すると自分の間違いに気づくかもしれない。一度叱られたら取り返しがつかないと落ち込む必要はないでしょう。
叱る側も決して自信満々ではなく、ビクビクしながら拳を振り上げることもあるし、翌日まで引きずることも結構ある。怒るにもエネルギーがいるけど、存分に発散すべきです。
スポーツや映画製作の現場では、あらかじめ怒っても大丈夫そうなタイプの人を一喝すると聞いたことがあります。すると周りがピリッとして、仕事に対する緊張や張りが変わってくる。ひとりを叱ることで集団が変わる。
叱ることによって双方とも気持が引き締まる効果ってありますよね。だからこそ、後々までお互い根に持たないような「叱る力」、「叱られる力」が必要です。「怒られたから二度とアイツは許せない」と相手に思わせるのではなく、より信頼関係が深くなることが大事なんですけどね。
──そこが難しくて多くの人が悩んでいる。実際にどう叱ればいい?
阿川:絶対に正しい叱り方なんてないですよ。ただ、叱る側も叱られる側も相手がどういう気持でいるか想像力を働かせること。
叱るほうとしては、相手が打たれ強いか、打たれ弱いかを見極めることも大切でしょうし、叱ったあと、いったん時間や距離を置いて、互いに冷静になることもいいと思う。出世に関わるから怒っているのだとわかれば、部下の心は途端に離れていくでしょうし。部下の失敗は俺が尻拭いするぐらいの覚悟が見えれば、怒鳴られても人はついてきますよ。
以前、対談した元東京ヤクルトスワローズの宮本慎也さんは「言い訳は進歩の敵だ」とおっしゃいました。人間だから失敗することは山のようにあります。部下や後輩を叱ってから自分の間違いに気づいたら、「あの時は申し訳なかった」と謝る潔さがあれば、信頼される上司になれるはずだと。
※SAPIO2014年9月号