ライフ

震災後半年で復興した石巻の製紙工場の感動ノンフィクション

【書評】『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』/佐々涼子/早川書房/1620円

【評者】末國善己(文芸評論家)

 かなりの本好きでも、冲方丁『天地明察』や百田尚樹『永遠の0』、尾田栄一郎の漫画『ONE PIECE』などで使われている紙が、日本製紙石巻工場で作られていることまでは知らないのではないだろうか。

 2011年3月11日。日本の出版を支えていた石巻工場を、東日本大震災の津波が襲う。紙を製造する抄紙機はすべて泥と瓦礫に埋まり、完全に機能を停止してしまった。

 震災のショックが残る3月下旬、工場長の倉田は、半年でまず1台の抄紙機を動かすという復興プランを示す。食料の入手も難しく、電気や水道も復旧していないなかで、手作業で泥をかき出し、巨大な瓦礫を取り除く。工場内から遺体が発見されるなど過酷な作業は困難を極め、本社と現場の対立までも発生する。

 それでも現場の従業員は、「味のある紙を造り出せる」8号抄紙機を再稼働させるため、体を動かし知恵を絞る。

 工場再生の背後にあったのは、自分たちも被災者でありながら、震災を生き延びた人間に何ができるのかを問い、本を待ち望んでいる人に早く紙を届けたいと考える従業員たちの強い使命感だ。同社の各部署はもちろん、危機を救ってくれたライバル会社、工場再生を信じてくれた出版社などの思いがリレーのようにつながり、8号機を再生させていくプロセスには、深い感動がある。

 工場の復興と並行して、出版社による文庫本の紙質の違いや、大量生産でありながら職人技が生かされている日本の製紙事情なども綴られている。電子書籍が普及する今だからこそ、紙の本の良さを再認識したい。

※女性セブン2014年8月21日・28日号

関連記事

トピックス

紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
大村崑氏
九州場所を連日観戦の93歳・大村崑さん「溜席のSNS注目度」「女性客の多さ」に驚きを告白 盛り上がる館内の“若貴ブーム”の頃との違いを分析
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
佐々木朗希のメジャー挑戦を球界OBはどう見るか(時事通信フォト)
《これでいいのか?》佐々木朗希のメジャー挑戦「モヤモヤが残る」「いないほうがチームにプラス」「腰掛けの見本」…球界OBたちの手厳しい本音
週刊ポスト
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン