東北在宅ホスピスケア研究会と医療法人社団「爽秋会」による「在宅ホスピスご遺族アンケート」(調査対象の遺族366名、故人の享年は平均74.2)によると、故人が亡くなる前にお迎え現象を体験していたケースは42%だった。見えたもの、感じたものは多い順に「すでに亡くなった家族や知り合い」、「その他の人物」、「お花畑」だった。猫や虫などを見た人もいれば、「ふるさとの風景」を見た人もいた。
臨死体験をしたことのある『看取り先生の遺言』(文藝春秋刊)著者でジャーナリストの奥野修司さんが言う。
「戦後は自宅で亡くなる人が多く、お迎え現象はよく聞く話でした。まだ戦争で生き残ったかたが何人もいて、先に亡くなった戦友がお迎え現象の話に登場することが多かったですね。ぼくは大阪と和歌山の県境出身で、子供の頃の’50年代には葬式があると『お迎えがあったか?』という会話がありました。今は病院で自然死じゃない亡くなり方をする人が多いのでお迎えをあまり聞かない。最近になって聞く『お迎え現象』は在宅医療の現場でのことが多いです」(奥さん)
誰かが迎えにこなくとも、「三途の川」に代表されるような不思議な景色の見える場所にいたと証言する人もいる。「光に包まれた」と話すのは『臨死体験 生命の響き』(大和書房刊)著者で文学博士の鈴木秀子さんだ。 「30年以上前のことです。私は母校の聖心女子大学で教鞭をとっていました。その日は翌日に奈良で開かれる学会のため奈良市街の修道院に泊めていただくことになっていました。修道院に着いて部屋に案内されましたが、なかなか寝つけず夜中に目が覚めてしまいました。外に出ようと暗闇の中、部屋を出て廊下を進んでいたところ足を踏み外し急な階段から真っ逆さまに転がり落ちて気を失ってしまいました。
どのくらいの時間が経過したかはわかりません。ふと気がつくと私の体は宙に浮かび足のまわりは蓮の花弁に覆われていました。その私を、さらに高いところからもうひとりの私が見下ろしているのです。花びらが一枚一枚散るたびに苦しみから解放されるのを感じました。
そして最後の一枚になったとき、私の体はひとつになり美しい光に包み込まれたのです。金色の輝きに満ちた一面の光の世界。そして、『現世に戻ったとき、いちばん大切なのは知ることと愛すること』というメッセージを受け取り、その瞬間に意識が戻ったのです」(鈴木さん、以下同)
駆けつけたシスターたちからは「階段から落ちた直後に『大丈夫です』と言いながら自室に戻った」と後になって言われた。しかし、鈴木さんは全く記憶にないという。
「光に包まれる体験をしてから、私の中で変化がありました。それまで悩んでいたさまざまなことがとても小さく思えて、もやもやとした霧がサーっと晴れたようでした」
鈴木さんは自身の母親からも臨死体験の話を聞いていた。
「母が病気になったとき、一時危篤状態になりました。峠を越して目が覚めたとき『海のほうから宝船が迎えにきたの。船の上では七福神とおじいさん、おばあさんが嬉しそうに笑いながら手招きしていた。でも、私はその船には乗らなかった』と話したんです」
※女性セブン2014年8月21日・28日号