映画『ローマの休日』で、グレゴリー・ペック演じる新聞記者のジョーが、オードリー・ヘプバーン扮するアン王女の前で手を入れたことであまりにも有名な「真実の口」。7月中旬、そこに右手を入れる自身の写真をフェイスブックにアップしたのは、自民党の石井準一・参議院議員だ。
〈6世紀に建てられたサンタ・マリア・イン・コスメディン教会を巡った様子です〉──と記した上で「真実の口」に長蛇の列ができていたことを紹介し、こう書いた。
〈私も、30分ほど並び、ようやく拝見できました〉
ただの観光旅行ではない。税金を使った「海外視察」である。
「地球儀俯瞰外交」を掲げる安倍首相は7月下旬から8月上旬に中南米5か国を訪れたのに続き、9月上旬にはバングラデシュ、スリランカの両国を訪問する。安倍首相の訪問国数は49か国と小泉純一郎・元首相を抜いて歴代トップとなる予定で、かつてないハイペースで外遊を続けている。
この夏は、そんな安倍首相に続けとばかり多くの国会議員が海外視察へと旅立った。国会閉会後からこの8月にかけて衆参合わせて107人が視察に参加。衆院は基本的に委員会ごとに理事が中心となった数人のチームで(一部は国会対策担当議員などで「班」を編成)、参院はテーマごとに議員団が編成されて派遣されている。
予算は衆院の場合で「1人180万円」が上限とされており、それを超えた分は議員本人が負担することになっている。概ね1週間前後のヨーロッパ旅行で往復の航空券と宿泊費などを合わせて1人あたり150万~160万円前後の費用がかかっている。明らかに税金で払われる上限を意識した計画だ。
飛行機の座席はビジネスクラス。数年前までファーストクラスだったが「贅沢すぎる」との批判が出てビジネスが基本となった(議長・副議長はファーストクラス)。
国会議員の視察は、これまでにも「単なる観光旅行ではないか」「税金の無駄遣いだ」という批判がたびたびあった。
2010年には、中塚一宏・代議士(現在は落選中)がドイツやギリシャなどを視察した際、妻子と現地で合流した上で日本大使館が手配したバスに同乗させ、一緒に観光していた事実が判明。中塚氏は「妻子の旅行代金は私費」と説明したが、議員にとって海外視察は“ご褒美旅行”程度のものであることが露呈した。
同じ2010年には、衆院文部科学委員会の議員6人がドイツやフィンランドを視察した報告書にインターネットの百科事典「ウィキペディア」からのコピペが含まれていたことが判明した。報告書を書いたのは同行した衆院事務局の職員だったとも報じられているから、議員はまさに大名旅行をしただけなのだ。
※週刊ポスト2014年8月29日号