8月初旬に中国雲南省で発生したマグニチュード6.5の地震では400人以上が亡くなったが、その救援に向かった李克強首相の被災民を思う言動が中国で賞賛されている。雨でドロがぬかるんでいる道を決死の覚悟で進み、ドロに足を取られて、転んでも、起き上がり、ドロで汚れた手を泥水で洗って、再び歩き始めたというのだ。
中国共産党機関紙「人民日報」が伝えたもので、首相など党指導部の動静を伝える際の“ヨイショ記事”といえなくもないが、「中国の慈父」とか「温おじいさん」として、「涙もろく慈悲深い『国父』を演じた温家宝・前首相の後継者」との声が早くも上がっている。
雲南省の地震は8月3日午前4時半ごろ発生し、現段階で被災民は108万8000人と伝えられる。地震発生の翌4日朝、李氏は被災地入りし、現場で被災民救済の陣頭指揮をとった。
李氏は余震で揺れるなか、軍の救援隊に倒壊した建物周辺のがれきを片付けて、内部にいる人々を救出するよう指示し、自身もがれきの撤去作業を手伝っている。
また、5日はさらに被害が大きい被災地入りを計画。車が入ることができない山間部だったことから、白い開襟シャツと黒いズボン、革靴姿で、自ら歩いて現場に向かおうとした。その際、尻餅をついて泥でぬかるんだ道に倒れ込むシーンもあった。
そこで、腰を曲げて、汚れた手を道ばたにできた水たまりで洗うという所作を見せた。その際、近くにいた軍兵士が李氏にティッシュを差し出したのが、李氏はそれを受け取らずに、手を払うと、そのまま歩き出したという。
この行動を見ていた人民日報の記者が美談風に李氏の言動をルポしたところ、ネット上では「感動した。李首相の民衆を思う心は素晴らしい」との称賛の声もあったが、「第二の温首相の誕生だ。大した映画スターだ」との批判的な書き込みも見られたという。
人民日報は「最近、指導者が被災民の激励のため、災害に見舞われた現場に出かけることは多いが」と前置き。このほど腐敗問題で拘束された海南省の譚力・副省長は四川大地震の際、被害が大きかった綿陽市党委書記だったが、被災民激励のために現地入りした中央指導者のご機嫌を取ろうと満面の笑みを浮かべ、被災民よりも中央指導者ばかりを気にしていたと報道。
さらに、最近重大な水害に見舞われた江西省貴渓市の幹部は靴が濡れるのを嫌がり、増水した川の周辺に近づかなかったという実例を挙げて、「その点、李克強首相の場合は、彼自身の思いがそのまま言動に表れており、庶民を思う気持ちが強いことを物語っている」と指摘している。
とはいえ、これについても、「最近は腐敗摘発で習近平・国家主席の方が露出度が多いだけに、この地震で、李首相は自信の存在感をアピールしようとしているのではないか」(ある北京市民)との声も聞こえてくる。