認知症の原因疾患のひとつにアルツハイマー病があげられるが、治療法は未だ確立されていないのが実情だ。ただし、認知症を発症する前の「MCI(軽度認知障害)」の段階であれば、正常へ回復することも可能だという。
愛知県にある国立長寿医療研究センター・生活機能賦活研究部部長の島田裕之さんはこう語る。
「MCIは、認知症ではないけれど正常であるとも言い難い、軽度の認知機能の低下が観察される状態です。注目されるのは、MCIになると認知症に移行する危険性が高い反面、正常の認知機能に回復する場合がある点でしょう。
そこで私たちは、認知症の発症予防につながる有効な運動はないだろうかと研究を進め、『コグニサイズ』という脳活性化運動を開発、検証するに至りました」(島田さん、以下「」同)
「コグニサイズ」とは、認知を表す「コグニション(cognition)」と、運動を表す「エクササイズ(exercise)」をかけ合わせた造語。
「有酸素運動については、認知機能向上に有効であるという研究がありますが、その効果は限定されています。コグニサイズは、有酸素運動を中心とした運動に加えて脳にも負担をかける、例えば歩きながら引き算をする、踏み台昇降をしながらしりとりをするなど、頭を使う作業を加えることによって脳の活性化をめざすプログラムです。
このように同時に2つの作業を行うことは、『デュアル(二重)タスク(課題)』と呼ばれ、認知機能が低下し始めた時に顕著に低下することがわかっていて、それをトレーニングするには有酸素運動と認知課題の組み合わせが、効果的だと考えています」
国立長寿医療研究センターが308名のMCI高齢者を対象に検証したところ、コグニサイズを導入した運動教室に参加した人では、記憶力の向上、海馬周辺の萎縮の抑制が見られたという。海馬は記憶や学習を司る脳の部位であり、アルツハイマー病は海馬が萎縮する病気のことをいう。
「コグニサイズには先述した踏み台昇降などのほか、トレーニングラダー(はしご)という道具を使った『ラダー運動』があります。これは数字を記憶しながら足踏みしてマス目を進み、該当の数字の箇所で拍手など特別な動作をする、デュアルタスクを課す運動です」
このラダー運動を手軽に、さらに脳を活性化させることを目的に考案されたのが赤・青・黄・緑の4色からなる「4色あしぶみラダー」だ。『新開発!国立長寿研の4色あしぶみラダー』(小学館・9月3日発売・1800円+税)は島田さん監修による小冊子と4色あしぶみラダーがセットになったもの。
「ラダー運動に加えて、簡単な筋力トレーニングや有酸素運動に取り組むとよいでしょう」