ビジネス

旧そごう水島廣雄元会長 102歳になっても師と慕われていた

波乱万丈の経営者人生を送った旧そごうの水島廣雄元会長

 かつて「そごう」(現そごう・西武)を日本一百貨店に育てた水島廣雄氏(元会長)が、7月28日に心不全のため102歳で亡くなっていたことがわかった。

「ダイエー創業者の中内功氏と並んで、“売り上げがすべてを癒す”と信じていた流通経営者の双璧でした」と話すのは、経済誌『月刊BOSS』編集長の関慎夫氏。同氏が波乱に満ちた水島氏の経営者人生を振り返る。

 * * *
 1936年に中央大学法学部を卒業し日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行した水島廣雄氏は、興銀マンとしてサラリーマン生活を送りながら「不動担保の研究」で法学博士号を取得。東洋大学法学部教授を兼務し、担保法の権威としても知られていた。

 1958年には縁戚が社長を務めていたそごうに副社長として入社し、1962年に社長に昇格。以降、2000年の経営破綻直前まで、そごうの最高実力者として君臨し続けた。

 水島氏が入社した当時のそごうは、大阪、神戸、東京の3店しかない中堅百貨店にすぎなかった。それが社長就任から約30年後の1991年、三越や高島屋などの老舗百貨店を抜いて日本一百貨店に躍り出た。それを支えたのが、思い切った多店舗展開だった。

 都心ではなく都下や千葉市、横浜市など東京周辺部駅前一等地に地域一番店を出店、さらには東南アジアを中心に海外にも進出し、一時は国内外合わせ40店舗を誇った。

 一つの店をオープンさせると、その土地を担保に銀行から融資を引き出し、次の店を出店する。また各地方自治体は、再開発物件のキーテナントにそごうを誘致、水島氏はそれに応えた。水島氏の攻めの姿勢と時代が一体化したことがそごうの急成長を支えていた。

 ところが、日本一になるとほぼ同時にバブルが破裂、百貨店の売り上げは低迷する。そごうも例外ではなく、そうなると、過度の出店が自らの首を絞めていく。結局、2000年7月に2兆円近い負債を抱え民事再生法を申請するまで、そごうは加速しながら坂道を転げ落ちていった。水島氏の経営者人生は幕を閉じた。

 ところが、水島氏の戦いはこれでは終わらなかった。古巣であり、しかもそごうの成長を資金面で支えてきた興銀相手に立ち向かったのだ。

 そごうが経営破綻すると同時に、興銀は水島氏に対して個人保証の履行を求めた。1996年に錦糸町そごうを出店する際、興銀や日本長期信用銀行(現新生銀行)の融資約200億円に対して水島氏が個人保証をしていたため、それを履行せよと迫ったのだ。

 これに対し水島氏は「個人保証契約そのものが、履行を求めないとの条件のもと結ばれたものだ」と全面的に争う姿勢を示した。常識的に考えても、個人が200億円もの債務を弁済できるはずもなく、あくまで経営責任を明確化するために、便宜的に個人保証に応じたもの、というのが水島氏の主張だった。

 しかし興銀側は、「そのような条件はなかった」と全面的に否定した。当時、興銀は第一勧業銀行、富士銀行とみずほフィナンシャルグループを結成したばかりだった。二行へのメンツもあり、あくまで正当な個人保証契約だったと言い張るしかなかった。

 2001年には、水島氏は興銀に差し押さえられた預金から1億円を引き出したと刑事告発され、逮捕され、刑事被告人にもなった。

 この頃の水島氏は、口を開けば興銀の経営陣を罵倒した。そごうの出店に関して、興銀は積極的に融資した。時には水島氏が逡巡するような案件でも、興銀が背中を押したことで出店したようなケースもあった。「一蓮托生の関係だったのに、興銀は自分を裏切った」というのが水島氏の思いだった。

 その一方で、「興銀側は担当者も口裏を合わせて条件付だったことを否定するため楽観はしていない」と胸中を吐露していた。そして実際に水島氏の興銀に対する債務は確定し、刑事裁判でも有罪判決が下った。水島氏の全面敗北だった。

関連記事

トピックス

田村瑠奈被告(右)と父の修被告
「ハイターで指紋は消せる?」田村瑠奈被告(30)の父が公判で語った「漂白剤の使い道」【ススキノ首切断事件裁判】
週刊ポスト
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
暴力団幹部たちが熱心に取り組む若見えの工夫 ネイルサロンに通い、にんにく注射も 「プラセンタ注射はみんな打ってる」
NEWSポストセブン
10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
宇宙飛行士で京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定教授の土井隆雄氏
《アポロ11号月面着陸から55年》宇宙飛行士・土井隆雄さんが語る、人類が再び月を目指す意義 「地球の外に活動領域を広げていくことは、人類の進歩にとって必然」
週刊ポスト
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン