阿川佐和子氏がベストセラー『聞く力 心をひらく35のヒント』(文春新書)に続き今年6月、新著『叱られる力 聞く力2』(文春新書)を刊行した。父に、上司に、怒られ続けて60年の阿川氏に、なぜ大人は叱り下手になってしまったのかを解説してもらった。
──昔の日本ではガンコ親父の怒鳴り声が日常茶飯事。阿川さん自身、厳しい父親のもとで散々叱られながら育った。
阿川:ウチの父は本当に理不尽でした。「養われているうちは子供に人権はないと思え」が口癖で、「俺が駄目と言ったら駄目なんだ!」と常に上から押さえつけられました。本に書いた叱られエピソードはほんの一部ですよ(苦笑)。
我が家もそうでしたが、昔の家庭には父親と母親の責任分担があり、家の細かなことはすべて母親に任せ、最後の“締め”だけを父親が行なっていました。飲んだくれてベロベロになって帰ってきた父親でさえ「お前、宿題やってねえのか!」と子供を一喝したら、それを見た母親は「ほら、怒られたでしょう」と亭主を立てるのが当たり前。一家の主人とはそういうもので、誰の稼ぎでご飯を食べられるのか家族全員が認識していた。
その上で父親から理不尽に叱られた子供の悲しみや憤りは同居する母親や祖父母がしっかり受け止めてフォローした。そうした家庭内の役割分担があったから、父親が理不尽でいられたのかもしれませんね。
でも、今は滅私奉公の母親なんてほとんどいなくなり女性の権限はかぎりなく強くなった。それはそれで私としても有難いことだけれど、反面、父親の威厳があまりにも薄れ、子供は「酔っ払って帰ってきて何もしてねーじゃん!」と父親を尊敬しなくなった。
父親も子供に嫌われたくないから、叱ることをさらに回避するようになった。父親が娘を溺愛して、「何がほしいの?」「はい、これルイ・ヴィトンのバッグだよ」と媚びることが当たり前になってませんか?
※SAPIO2014年9月号