【漫画紹介】『うきわ(2)』野村宗弘/小学館/596円
夫は、「うわき」をしている。問い詰めることもできず、心もとなく漂流する私に、隣のご主人は「うきわ」を投げて、助けてくれた…。夫に浮気され傷ついた若い女と、いつも家にいない(たぶん浮気をしている)妻を待つ中年男の関係を描く野村宗弘『うきわ(2)』(小学館)。
主な舞台は社宅のベランダ。夫の上司でもある隣人に、壁越しに悩みを吐露するうち、女はすがるように急速に思いを高めていきます。男のほうはもう少し冷静。けれど自身の寂しさと、女への同情と、女の若さ美しさへの抗い難い感情とが混じりあい、愛しさが生まれます。堂々と会えるのは、早朝のゴミ出しの時(ふたりともパジャマ姿)だけでしたが、「相談」として食事に行った帰り道、女は思わず男の手をとってしまい…。
〈緊急時には、この壁を突きやぶって隣りへお逃げ下さい〉。ベランダの薄い壁にはこう書かれています。男にとっては〈この壁は理性を保つ防護壁〉ですが、女はその壁を突き破りたい衝動に何度も駆られます。
「不倫」のギリギリ手前で踏みとどまるふたりの姿が危なっかしくも、もどかしく。一瞬ほのぼのとした情景が差し挟まれるのも、せつなさを増幅させます。不倫カップルのドロドロのベッドシーンを見せられるより、薄い〈壁〉を前に立ちすくむふたりの姿が延々続くほうがなぜかずっとエロティックで…。不倫容認派の人も否定派の人も、壁のこちら側で息を殺してふたりの動向を覗き見たくなるはずです。
(文/門倉紫麻)
※女性セブン2014年9月4日号