人々が寝静まる頃を見計らったかのように発生した広島市の土砂崩れは、8月21日夜までに死者39人、行方不明者43人を出す大惨事となった。
間一髪で危機を免れた安佐南区在住の50代男性がその瞬間を振り返る。
「我が家は土砂の直撃はせんかったけど、家が傾いてしもうた。ゴーってすごい音がして、家がぐらぐら揺れた。家が傾いたうえに停電したから、暗くてどっちがどっちかわからんのよ。カミさんと必死になって山の反対側に逃げたわ」
被害を受けた家の親族は、膝まで泥水に浸かり、消防隊員の手を借りながら目的の場所にたどり着くも、瓦礫と化した家を見て呆然と立ち尽くしていた。
この地域は1999年にも死者31人、行方不明者1人を出す土砂災害に見舞われた。今回さらに被害が拡大した原因は1時間に100ミリを超える雨量を指摘する声が多いが、同時に注目すべきは土壌の問題だ。
防災とまちづくりが専門の山口大学大学院・瀧本浩一准教授が解説する。
「この地域は風化した花崗岩(かこうがん)の地質が広がり、もともと雨に弱いんです。そこに3時間で1か月分の雨量という、かつてない急激な集中豪雨に襲われた。さらに、近年の宅地開発で山の斜面ぎりぎりまで家が立ち並んでいることも、被害を拡大させました」
風化した花崗岩は水分を含むと強度が一気に落ちる。今回の被災地域も8月に降り続いた雨によってもろくなり、集中豪雨で一気に崩壊したようだ。
日本列島で多く分布する地質は、風化しにくく災害が起こりにくいとされる流紋岩や安山岩だが、国土面積の約15%は風化花崗岩でできている。つまり、そのエリアは土砂災害の危険性が高い。
西から、福岡・脊振山、山口・広島の瀬戸内海側、島根・出雲地区、兵庫・六甲山、奈良・吉野山、愛知・奥三河地区、福島・中通り地区などが風化花崗岩の代表的な分布エリアだ。
「風化花崗岩は地形や気象条件にもよるが、30~50年周期で大雨で一気に流れるという崩壊メカニズムがあります。数十年にわたって土砂災害が起きていない地域こそ豪雨に襲われれば注意が必要です。普段の防災意識が生死を分けるのです」(砂防学が専門の岩手大学・井良沢道也教授)
ギリギリの場面では、個人個人の知識と判断が運命を決める。
※週刊ポスト2014年9月5日号