「料理の隠し味は愛情」とはよく言うが、このお弁当には隠しきれないほどの愛情が詰まっている。
そう話題になっているのが『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』(マガジンハウス刊)だ。著者は「TOKYO NO.1 SOUL SET」のギター&ボーカルを務める渡辺俊美さん(47才)。福島県出身で震災のあった2011年末には「猪苗代湖ズ」というバンドを組んで第62回NHK紅白歌合戦に出場した。
渡辺さんは3年前の春、高校に合格した息子・登生くんと男と男の約束を交わした。登生くんは「一度決めたからには必ず3年間、休まず通って卒業する」。そして父は「3年間、毎日お弁当を作る!」ということ。
「4年前、息子は高校受験に失敗してしまった。その前の年にぼくが離婚して家族に変化があったことで、複雑な心境だったのかもしれません。ですが、息子は再受験を決意してくれた。高校進学だけが人生ではないと思っていましたが、『学校へ行きたい』と言ってくれた時は嬉しかったです。
男2人家族で、ぼくもできる限りサポートしたいと思ったし、息子が学校へ通い続けることを約束してくれた以上、ぼく自身も目標を立てたいと思ったんです。そんな時にふと思い浮かんだのが息子の昼食。弁当代わりにお金を渡すだけ、というのには違和感があった。
入学前に『お金を渡すから好きなものを買うか。それともパパがお弁当を作るか。どっちがいいの?』と聞いたんです。すると、『パパの弁当がいい』と。パパも一生懸命弁当を作るから3年間頑張ろうねって約束しました。それが弁当を作り始めるきっかけでした」(渡辺さん、以下「」内同)
お弁当を毎日作るのは想像以上に大変だった。
「最初は息子の好物のレトルトハンバーグをよく入れてました。色どりもあまりよくないし、弁当と呼べるようなものではありませんでしたね。とはいえ、明日の弁当は何にしようとネタを考えるのが大変で、5月の連休頃には正直言って疲れてしまったんです」
そこで「栄養面を気にしすぎない」「晩ご飯の残りを翌日の弁当にも入れてよい」など自分なりのルールを立てることで気持ちがずいぶん楽になったという。
父の試行錯誤の結果は「おいしかった!」という満足度だけでなく、嫌いな食べ物を克服させるパワーにもなった。
「息子はナスが苦手でしたが、今は嫌いなものはありません。ナスって味がないのが嫌だったみたい。そこでどうにかおいしくできないかと考えて前日からナスをタレにつけこんで味をしみこませて食べやすくしたんです。『ナスおいしかったよ』と言ってくれて安心しました」
※女性セブン2014年9月4日号