首相官邸5階の総理執務室に据えられた「株価ボード」を睨む安倍晋三首相の表情が最近、険しくなっていると評判だ。日経平均株価が勢いを失うと同時に内閣支持率も下落。安倍政権にとって経済の立て直しが急務となる中、8月に入って発表された消費増税後の経済指標に大きな注目が集まっている。
8月13日、内閣府は4~6月期の実質GDP(国内総生産)成長率がマイナス1.7%、年率換算でマイナス6.8%と大幅減を記録したことを発表した。
これは東日本大震災時のマイナス6.9%(2011年1~3月期)以降最大の下げ幅で、前回1997年4~6月期の消費税引き上げ直後のマイナス3.5%を大きく上回る数字だった。それでも甘利明・経済再生担当相は会見で「緩やかな回復基調が続いている。4~6月の増税後の落ち込みは反動減の範囲内だ」と評価してみせた。
新聞各紙は横並びで大本営発表を伝える記事を掲載した。〈景気、緩やか回復続く〉──翌14日付の日経新聞1面の見出しである。記事はこう続く。
〈4~6月は消費増税の反動減でマイナス成長となったが、7~9月以降は企業が設備投資を積み増し、個人消費も回復に向かう〉
安倍政権は年内に消費税10%の決断を迫られている。ここで景気の腰折れを認めると、再増税が延期になりかねない―─そんな政権の思惑に沿った報道が大半なのだ。
だが、大本営発表は所詮、大本営発表だ。経済戦略の破綻は隠しようもない。経済学者の田代秀敏氏(RFSマネジメントチーフエコノミスト)は今回のGDP成長率の数値そのものに疑問を呈す。
「GDP成長率は今期(4~6月期)と前期(1~3月期)の比較で算出されます。当然、前期の数字が低ければ低いほど成長率を高く見せることができる。今回、1~3月期の数値は「535兆1066億円」が使われている。この数字は3度目の発表値ですが不自然に改定されています。
1次速報値は535兆5245億円でした。それが2次速報値(536兆1223億円)になると6000億円近く積み増されました。通常は1次、2次と回を重ねるごとに数値の精度が高まるものですが、3度目の算出値では一気に1兆円以上も2次より減った。これで政権は命拾いした」
どういうことか。この1兆円の違いが、GDP成長率に大きな差を生むのだ。1次速報値を用いると、GDP成長率はマイナス7.1%、2次速報値ではマイナス7.5%と、発表数字よりさらに落ち込む結果になる。もしこんな数字が出ると東日本大震災時(2011年1~3月期)のマイナス6.9%を超える景気急落になる。
田代氏は「6.9%を超えるとアベノミクスの否定に繋がりかねないため、政治的な力学が働いたとしても不思議ではない」と指摘する。
※週刊ポスト2014年9月5日号