小学館の雑誌『週刊ポスト』『女性セブン』『SAPIO』が主催する第21回小学館ノンフィクション大賞の選考結果が発表された。そこで優秀賞に輝いた一作が『ゆめいらんかね──やしきたかじん伝』(角岡伸彦著)である。その内容を紹介しよう。
今年1月3日、歌手でタレントのやしきたかじんが食道がんで死去した。関西を中心に活動してきた、いわば“ローカルタレント”である。しかし、翌日の全国紙はその死を大きく報じた。死の2か月後にとりおこなわれた偲ぶ会の発起人には、安倍晋三首相をはじめ橋下徹大阪市長、建築家・安藤忠雄氏、タレント・ビートたけし氏など各界の大物が名を連ねた。現在も関西では冠番組が続くなど、たかじんの存在感は死後なおも輝きを放っている。
ただし、数多の追悼番組が組まれ、有名人らとの交遊録が語られたたかじんだが、出自や素顔に関しては知られていない点が多い。
大阪の下町、西成区出身のやしきたかじんが、なぜ歌手を志し、さらにはタレントとして認知されていったのか。
なぜ東京進出に失敗し、その後、東京の番組出演を避け、遂には東京への番組配信すら禁じたのか。また、晩年は、芸能界にとどまらず政界に接近し、橋下徹市長をはじめとする政治家を生む原動力となっていったか。本書では、たかじんの64年の軌跡を関係者の証言から、ひも解いていく。
それら取材のなかで明らかになっていったのは、交流のあった作詞家が「小心者で、優しくて、気の弱いおじさん。あの人は、やしきたかじんを演じていたと思う」と評しているように、一見、剛胆にみえるたかじんのあまりに一本気で繊細すぎる一面だった。
時にその性格が災いし、最も近く、大切な関係者との軋轢を生んでいく。また、タレントとして“関西の視聴率王”の名をほしいままにしていた晩年にあっても、彼は自らの本業が「歌手」という自負があった。内的な葛藤を抱えながら、自らに求められた役割を「演じる」たかじんの「心奥」を、たしかな取材で描いていく。
※週刊ポスト2014年9月5日号