熊野灘に面した紀伊半島南部の和歌山県太地(たいじ)町。古来、捕鯨が盛んに行なわれてきた人口3000人あまりの小さな漁村では、今年も9月1日からイルカの追い込み漁のシーズンを迎える。
太地町を舞台にし、イルカ漁を残酷な動物虐待と決めつけた米ドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ』が公開されたのは2009年。それ以来、9月のイルカ漁解禁に合わせて世界中の反捕鯨活動家が太地町に集まり、漁村は物々しい雰囲気に包まれる。今年1月にはキャロライン・ケネディ米駐日大使が「イルカ追い込み漁の非人道性を深く懸念する」と表明したこともあり、今年は漁の妨害の過激化が懸念されている。
一般に成体が4メートルを超えるものをクジラ、それ以下のものをイルカと呼び、太地町ではオキゴンドウなど小型のクジラと、スジイルカなど数種類のイルカの漁が認められている。
イルカ漁を声高に批判する人たちにも、捕獲されたイルカがすべて食用にならず、生きたまま世界中に輸出されていることはあまり知られていない。その大半が水族館用だ。数十頭のイルカ輸出にかかわった仲介業者が話す。
「生け捕りにされたイルカは特殊なコンテナで空輸される。その数は昨年で80頭近くに上る。1頭あたり450万円が相場だ」
イルカ漁は日本の他に南太平洋のソロモン諸島などで行なわれているが、輸出用としては太地町で捕獲されたものが最も人気が高い。
「輸出までの期間、イルカにストレスがかからないよう生け簀で飼育し、しかも人間に慣れさせるトレーニングを施すノウハウがあるのは世界でも太地町だけ。それに日本は動物検疫体制がしっかりしているので、病気を持った個体を買わされる心配もなく信用が高い」(同前)
※週刊ポスト2014年9月5日号