アル・カイーダ系の反政府武装組織「イスラム国」により、シリアで拘束された“民間軍事会社”経営者の湯川遥菜氏(42)氏。湯川氏はミリタリーグッズの販売などに携わった後、PMCという会社を経営していた(PMCはプライベート・ミリタリー・カンパニー=民間軍事会社の略称)。しかし、登記上の事業内容は輸入販売業などと記述され、本社所在地とされる住所にオフィスは存在しなかった。
湯川氏が本気で民間軍事会社設立に動いた形跡はある。PMC社の顧問を務める元茨城県議(自民党)の木本信男氏はこう説明する。
「湯川氏とは、今年の1月、田母神俊雄氏(元航空幕僚長)の新年パーティで知り合い、2月に『ご相談したいことがある』と事務所に来た。民間軍事会社の構想を熱心に語っていましたよ。彼は、東南アジアの国々の軍隊経験者を集めてソマリア沖の海賊船から民間の船を守るという構想を持っていたようです。
ただ、本人は戦闘のプロではないし、警護の実績もない。日本の船舶会社に営業に行ったが、うまくいかなかったようです。それで戦場での経験を積むためにシリアに行ったのかなと。戦場で戦うということの認識が甘かったんだね。あと、軍事的なことに憧れをもっていることも彼の話す内容から何となくわかった」
そもそも民間軍事会社とは軍隊が戦地に派遣される際に、基地の設営や警備、兵士の衣食住の世話、補給物資の輸送警備など後方支援の仕事を請け負う。傭兵と違って通常は軍隊の戦闘にはかかわらないが、誰でもできる仕事ではない。国際政治アナリストの菅原出(すがわら・いずる)氏はこう説明する。
「民間軍事会社は、もともと軍隊にいた人たちが軍隊経験で培ったスキルや技能を使って商売をしている会社であり、いきなり経験のない人ができるはずがない。
私も含めメディアが民間軍事会社と呼んでいる会社はイギリスにもアメリカにもたくさんありますが、表向きはセキュリティ会社や警備会社だと名乗り、自らPMCだと明言する会社は存在しません。テロリストらの標的にされる危険があるからです」
軍事オタクが踏み込んでいい世界ではないが、湯川氏のフェイスブックには、自動小銃AK47を試射する映像がアップされている。そうした行為は身の危険を招くだけだという。
事業に踏み込んでいった背景を湯川氏の父・正一氏はこう推測する。
「息子は2000年に結婚して、当初は夫婦仲も良かったのですが、事業の失敗も影響したのかその後、別居状態になっていた。その妻も一昨年がんで亡くなった。入院時には息子と連絡が取れなくなっていたようです。この後に正行という名前を遥菜に変えたのも、思うところがあったんだろうと思います」
※週刊ポスト2014年9月5日号