安倍政権の“暴走”がいよいよ顕著になってきた。「集団的自衛権の行使容認」の閣議決定を強行したかと思えば、返す刀で北朝鮮との「拉致交渉」に使命感を燃やしている。この国は、いったいどこに向かっているのか。大前研一氏は、安倍政権の行く末に警鐘を鳴らす。
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集団的自衛権の行使容認がもたらす危険性について、国民は薄々気づいている。新聞各社の世論調査で集団的自衛権の行使容認への反対が54~58%を占め、安倍政権の支持率が落ちたのは、その証左だ。それを反転して支持率を再び上げるための一策が、北朝鮮の拉致問題解決なのである。
日本経済新聞の報道によると、北朝鮮は同国内に生存しているとみられる日本人の拉致被害者や拉致の疑いがある行方不明者ら約30人のリストを日本政府に提示したとされる。菅義偉官房長官は「全くの誤報だ」と否定しているが、いま永田町では、9月上旬にも安倍首相が訪朝して二ケタの拉致被害者と帰国を希望している多数の「日本人妻」(かつて在日朝鮮人の夫とともに北朝鮮に渡った日本人女性)を政府専用機で連れ帰り、その勢いで10月に衆議院解散・総選挙に打って出る、というシナリオがまことしやかに囁かれている。
そうなれば、野党再編が暗礁に乗り上げている現状では、自民党の圧勝は必至である。たぶん野党は壊滅し、安倍政権のブレーキはなくなってしまうだろう。逆に言えば、北朝鮮との外交は国内政治の延長でしかない。安倍政権は、日朝関係を改善させたいなどとは、さらさら考えていないと思う。
アメリカへの追従にしても、中国に対する強硬姿勢にしても、北朝鮮の拉致問題にしても、安倍外交には国家としての構想や長期ビジョンが何もない。「独裁」への危険なステップを着々と踏みつつある安倍政権の動きを、国民は政治ショーに惑わされず、しかと注視すべきである。
※SAPIO2014年9月号