厚生労働省発表のデータによれば、1960年代中頃まで6万91000組~8万41000組で推移していた日本の離婚件数は、2008年には25万1000組に到達。離婚件数は高いレベルで推移している。たとえ離婚をして親権を失っても、親には子どもに面会する権利があるが、別れた子どもと再会した際の態度の悪さに腹を立てて殴打してしまった場合、“元親”は罪に問われるだろうか? 弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
離婚のため7年間離れて暮らしていた16歳になる息子と再会。しかし、煙草を吸いながら生意気な口をきくので、つい感情的になり殴ってしまいました。後日、元妻から下顎裂傷の診断書が届き、傷害罪で告訴すると通達されました。別れたとはいえ、父親である私は本当に訴えられてしまうのでしょうか。
【回答】
殴った結果、下顎裂傷を負ったことが事実なら、あなたは刑法の定める傷害の罪を犯したことになります。正式に告訴されれば、受理されるでしょう。告訴されても、実際に起訴されるかは傷害の程度や示談の成否などにより決まります。
親族間で起きた窃盗や詐欺などの財産犯罪については、親族相盗といって罪を免除したり、告訴がないと罪に問えない制度がありますが、暴行や傷害には同趣旨の制度はありません。
なので、息子であっても殴ってケガをさせると罪に問われる可能性が否定できないのです。ただ、親として子供をしつける上で、ときには実力行使も必要です。すなわち親は子供に対する懲戒権を持っていると考えられています。子供の非行を正したり、生活態度を矯正するためには、しかるだけでなく、つねったり、叩いたり、殴ったり、縛ったり、閉じ込めたり、食事を抜いたりすることもありうることです。
民法第822条も「親権を行う者は、必要な範囲内で自らその子を懲戒し、又は家庭裁判所の許可を得て、これを懲戒場に入れることができる」と定めています。
しかし、物事は程度問題であり、親子の社会上の地位、子供の性情、矯正すべき非行の程度や性質などで事案ごとに判断されることになります。一時の激情に駆られたり、残酷な行為は懲戒権行使とはいえないでしょう。とはいえ、親が罪に問われた場合、子に対する懲戒権の行使として違法性がないという反論をすることができます。
ですが、右の民法の規定で明らかなように、懲戒権を持つのは親権者です。あなたは離婚して7年間、子供に会わなかったというのですから、親権者ではないはずです。結局、あなたの暴行を正当化するのは困難です。早く元妻と子供に謝った方がよいでしょう。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2014年9月5日号