著者/川上未映子氏(『きみは赤ちゃん』・文藝春秋・1404円)
つわりは「すわっすわ」、陣痛は「もりもりもりもり」。妊娠・出産の、まるで実況中継だ。
「明らかに異常事態ですよ。自分のお腹見て『これマジうけるわ(笑い)』みたいな。つわりは病気じゃないなんて言われても納得できないでしょ、こんなに自分の体がおかしくなってるのに。妊娠・出産は自然なことだなんて、わたしは絶対言えません」と語るのは、川上未映子氏。
芥川賞受賞作『乳と卵』で「アメリッカンチェリー色」と描写した妊娠中の乳首の色は、「電源を落とした液晶テレビの黒」に更新。「自分が体験していないことを想像することが、いかに難しいか」、その驚きと発見を徹底的に言語化した。
「出産って大体は自分たちが好き好んでするわけだから、そのつらさ、しんどさって、口に出せないんです。大多数のかたはそれを言葉ではなく塊として抱えている、自分でも把握しきれていないと思うんですね。だから、この本を読んで自分が今何がつらいのかがわかった、夫に何を伝えればいいのかがわかった、と言ってもらえるのがすごく嬉しい」
出生前検査、無痛分娩という選択とその費用、まさかの帝王切開。事件の連続の中で、特に共感を集めているのが「産後クライシス」。
「なぜ妻がずっと不機嫌なのかやっとわかった、と言う男性もいます。女性は出産によって全く違う人生に突入するけど、男性にとっては、ある日突然かわいい赤ちゃんがやってきただけ。追いつめられ方が全然違うんです。その時夫がどれだけ理解しようとしてくれたか、当事者として共感して、一緒にかかわろうとしてくれたかどうか。それは子供が自立した後の関係にも絶対響いてくると思う。夫に読ませたい、という感想がすごく多いんですよ。でも、読まないんだって。妻の身に何が起きているのか興味がないみたい」
作家である夫の阿部和重氏(45才)はどんな反応を示しているのか。
「まだ読んでないですね、今ものすごく忙しいから、じっくり読みたいんだと思う。友人知人からは『阿部ちゃん、かわいそう』って言われました。わたし、彼のことはすっごくよく書いたのに、どうして…」
国や自治体の少子化対策についても、「ナンセンス」とばっさり。
「仕事と育児、家事も両立するなんて無理ですよ。自分がやってみてよくわかりました。仕事も出産も、両方あんたたちがしたいことなんでしょって言われたら、それまでですけどね。夫が働いて、妻が専業主婦だった時代から、制度自体が変わってないんです。シングルマザーが風俗店で働かないと子供一人育てられない社会なんて、どう考えたっておかしい。そう思いませんか?」
(取材・文/佐藤和歌子)
※女性セブン2014年9月11日号