ドラマ『HERO』のモテない中年キャラ・末次事務官、映画『アウトレイジ』で策に溺れるマル暴・片岡…小日向文世(60才)が演じた役は多岐にわたっていて、それでいてどれも印象深い。演技の振り幅が広く、日本俳優史に残る名バイプレーヤーの素顔に迫った。
劇団員として活躍していた39才の時に11才年下の奥さんと結婚。2人の息子をもうけるのと前後して42才で劇団が解散した。
貯金もなく仕事もそれほど入らない。そんな生活が5年も続いていた2010年、『HERO』の初回シリーズへの出演が決まった。
「当時は渋谷にスタジオがあって、撮影の帰りセンター街を歩いていると、ガングロの女子高生がぼくを見て“あぁー!”って何度も指をさすんです。名前は出てこないんですけど(笑い)。これが世間に認知されたってことなんだって初めて実感しました」
このドラマが転機となり、仕事のオファーが殺到した。今や温厚な父親役からヤクザの親分まで演じ分ける名バイプレーヤーとして知られるようになった。
「最近は悪役も増えたので“黒小日向と白小日向の2つの引き出しがあるんだね”って言われることがあるけど、“2つだけじゃないよ”って反論したいな(笑い)。役者は演出家や監督の要望に応えるのが仕事。白と黒だけじゃなく、どんな役でもこなしますよ」
ただし、私生活は完全に“白”。休日は家にこもって観葉植物の水やりや淡水エビの飼育に時間を費やす。
高校生と大学生の息子とは寝る前と出かける前に必ずハグ。奥さんにも毎日“行ってきます”のキスは欠かさない。もちろん唇にだ。
「女房へのキスは結婚して21年ずっと続けています。家を出る時、飼ってるトイプードルと一緒に、チュッチュッて(笑い)」
役者としてデビューして37年。今後の目標を聞いた。
「ぼく、強欲なのか、まだ役者人生に満足してないんです。だから90才を過ぎても台本を持ち歩く生活をしていたい。台本ってぼくにとっては浮き輪みたいなもの。今まで常に側にあったし、ないと途端に不安になる。台本を持っていれば役者として生き延びている証にもなりますからね」
※女性セブン2014年9月11日号