内閣改造で注目された自民党の石破茂幹事長の処遇だが、8月28日に安倍晋三首相と石破氏が会談、石破氏が安保担当相以外のポストで入閣することが濃厚となった。これで一件落着かといえば、ことはそう簡単ではない。
石破氏は8月25日、ラジオ番組で安倍首相の看板政策である安全保障について「(私とは考え方が)違う」と語り、「首相と考え方が100%一緒の人が国会で答弁するのが一番いい」と打診されていた安保担当相就任の拒否を明言した。
組閣は総理大臣の大権のひとつで権力の象徴である。正式な就任要請の前に世間に向けて拒否宣言するやり方自体が前代未聞で、安倍首相に対する非礼極まりない宣戦布告だった。
首相側近からは、「石破さんは明智光秀になった」と批判の声が上がった。石破氏のやり方が良いか悪いかはさておき、政権基盤を固めるはずの内閣改造は一転、波乱含みの展開になった。
石破氏は当初、「安保相を断わるのは難しい」と周辺に漏らしていた(週刊ポスト8月15・22日号既報)。ところが大メディアが〈次の幹事長、憶測様々〉〈岸田氏が本命〉(読売新聞8月13日付)などと後任幹事長の人事を報じたことで安倍氏との共存共栄に不安を感じ始めたようだ。
「石破さんは『オレの退路を断つつもりか』と官邸のリークにひどく疑心暗鬼になっていた」(石破側近)
ちょうど織田信長が明智光秀に「領地は切り取り次第」と山陰侵攻を命じ、光秀の丹波の領地を召し上げて退路を断ったのと同じやり方だった。石破氏は光秀同様、「敵は本能寺にあり」と意を固めたのか。
そして、決起した石破氏に追い討ちをかけたのが官邸関係者から「安倍首相の機関紙」と揶揄(評価?)される産経新聞だった。同紙は石破氏のラジオ出演翌日の朝刊で、〈首相「石破系」を排除〉(8月26日付)と打ち、安倍首相が石破グループの議員を閣僚に起用しない方針を固めたと報じた。
石破グループの議員だけでなく、他派閥でも総裁選で石破氏を支持した議員の中には入閣待望組がかなりいる。シンパの議員たちまで政権から排除するというリークは、石破支持派を脅して内部崩壊させるわかりやすい工作だ。石破側近は腹の虫が治まらなかったようで、顔見知りの産経記者にこう吐き捨てた。
「あんなことを書いても安倍さんのためにならないよ」
※週刊ポスト2014年9月12日号