9月3日の内閣改造で石破茂氏が入閣することは濃厚なものの、それを「和解」「手打ち」と信じる空気は永田町には薄い。安保担当相を固辞したことで安倍vs石破の対決の構図はむしろ強まったという味方が自民党内では支配的だ。
今回の改造では、麻生太郎・副総理や甘利明・経済再生相、岸田文雄・外相ら主要閣僚の留任が早々に固まったと報じられた。女性閣僚枠も大きく増えると見られている。自民党内の60人近い入閣待望組からは「留任のほかはお友達と女性枠でほとんど埋まり、おじさん組のポストはほとんど残らない」(6回生議員)と改造前から不満が高まっていた。
“安倍サマ”にすり寄ってきた議員たちに失望と不満が広がる一方で、石破氏に批判的だった額賀派の後見人、青木幹雄・元参院議員会長や町村派の森喜朗・元首相という引退してなお党内に影響力を持つ長老たちが石破氏の応援に回る動きを見せている。
「青木さんは安倍総理が行き詰まったときは額賀派が石破さんを後継首相に担いでもいいと考え、反安倍の陣を敷く構えを見せている」(額賀派議員)
森元首相も、「(石破氏は)党の中で汗をかき、信頼も大きくなっている。安全保障法制の担当相でもいいが、幹事長のほうが、より政権は安定するのではないか」(8月2日付読売新聞インタビュー)と語り、自派閥の安倍氏より、むしろ石破氏の胸中を代弁するような言い方である。
安倍首相の党内基盤は決して盤石とはいえない。前回総裁選(2012年9月)は5人が出馬し、安倍氏の獲得した議員票は青木氏や森氏ら長老グループが支持した石原伸晃氏を下回り、出身派閥の町村派の票も割れた。
自民党3大派閥の一角、町村派はまだら模様で、額賀派、岸田派はいずれも非主流派。安倍政権を支える主流派は麻生派、大島派と派閥勢力では少数派だ。
石破サイドが「改造後は党内の不満がさらに高まる。石破さんがその声を吸収すれば十分に支持は集まる」(前出・石破グループ議員)と計算するのはそうした事情があるからだ。
安倍首相も8月20日には静養先で森元首相とゴルフを回り、22日には第2派閥を率いる額賀福志郎・元財務相と官邸で会談するなど、非主流派の取り込みを図った。
とくに石破氏が所属していた額賀派は外交路線が親中で、対中強硬路線の安倍首相と対立しており、小渕優子・元少子化相という“将来の女性首相候補”を抱えている。額賀派と石破氏が手を組めば、非主流派の結集が一気に進む可能性が出てくる。
それを防ぐため、官邸サイドは新聞辞令で「額賀幹事長」説や「小渕氏の入閣や党三役起用」説を流して揺さぶりをかけた。安倍首相も尻に火がついていることを重々理解しているのだ。
※週刊ポスト2014年9月12日号