高齢化ニッポンの新たな重要テーマになっているのが「実家の片付け・処分」である。「どのように家財を処分すればいいのか」「業者に依頼する場合の注意点」といったノウハウが注目を集めるが、背景にある「老老相続」の深刻な現実を見落としてはならない。
相続税の申告を元にした被相続人(死亡した人)の年齢構成比を見ると、80歳以上が占める割合は1989年の約4割から2010年には約7割に上昇した。被相続人の年齢上昇は、同時に相続人の高齢化を意味する。日本政策投資銀行参事役・藻谷浩介氏のベストセラー『デフレの正体』(角川書店刊)によれば、相続人の平均年齢は67歳に上るとの調査もある。相続した時には自分も高齢者になっているのだ。
相続資産が金融資産なら大きな問題はないが、厄介なのは不動産資産、中でも別居していた親の実家である。国税庁資料によれば土地・家屋は相続資産の50%超を占めていることからも、不動産相続は最大の懸案となっていることがわかる。
東京で妻と2人暮らしをする年金生活者のAさん(67)のケースは典型的な老老相続。4年前、郷里・高知で独居していた母親が89歳で亡くなり、実家を相続することになった。それはAさんの手に余るものだった。
「山間部にある古い30坪ほどの木造2階建てで、賃貸に出しても借り手は見つかりそうにない。運良く見つかったとしても、母が遺した家財道具を整理しなければならない。最初は何度かに分けて整理しようとも思いましたが、往復3万~4万円の交通費をかけて何度も通うわけにもいきません。仕方なく空き家のまま放置しています」
2013年の日本の空き家の数は約820万戸(総務省統計局調査)。前回調査(2008年)に比べて63万戸も増加した。都心で供給過多が取り沙汰されるマンションが原因ではない。空き家率が高い都道府県は山梨県17.2%、愛媛県16.9%、高知県16.8%、徳島県16.6%、香川県16.6%と、地方が目立つ。最大の理由はAさんのように、死亡した被相続人の不動産が放置されているケースとされる。
※週刊ポスト2014年9月12日号