8月17日、産婦人科医と東京大、京都大、慶應大の研究チームなどで組織された「日本子宮移植プロジェクトチーム」が国内での子宮移植実施に向けた指針を作成・公表した。
生まれつき子宮がない、子宮頸がんなどの病気で子宮を摘出した──そうした子宮を失ってしまった女性が子供を産む場合には、養子をもらうか、他人の子宮を借りて代理出産するなど方法は限られている。そんななか、新たな選択肢として子宮移植に注目が集まっている。
海外で11例が“成功”したという子宮移植。日本で実現すれば、現在の法律では「おなかを痛めて産んだ実子」となる。
子宮移植は夢のような技術だが、実現までの問題は山積みだ。まず、移植対象者と提供者の体に与える危険があまりに大きいということ。2000年にサウジアラビアで行われた移植は移植後に2度月経が認められたものの、その後子宮が壊死して再摘出された。拒絶反応や感染症を起こす場合もある。「吉村やすのり生命の環境研究所」所長で慶應義塾大学名誉教授の吉村泰典教授が言う。
「他人の臓器を体内に入れるので、血管を縫合するのに非常に高度な技術が必要となります。拒絶反応が起きて移植がうまくいかなかった場合は、再度手術して子宮を取り出すことになります」
生まれる子供に与える影響もまだわかっていない。
「服用する免疫抑制剤が子供にどんな影響を与えるのかわからないし、自分以外の子宮で子供を産むことによる影響もわかっていない。生まれた時に異常がなければいいという問題ではなく、10年後、20年後に成長した後も問題がないか長い目でみていかなければいけません」(吉村教授)
子宮移植手術の第一人者といわれるスウェーデンのイエーテボリ大・産婦人科のマッツ・ブランストロム教授もこう言う。
「移植によってどのような感染が起こるか未知の部分が多く医学的リスクが高い。また、手術は非常に難しく、まず子宮の摘出に約10~13時間かかります。移植を受ける側の手術も5~6時間かかるのです。また手術には莫大なコストがかかります」
吉村教授は、
「日本で手術が実現した場合、手術だけで200万円くらいはかかるのではないか」
と言う。もちろん保険適用外となるため、手術費用以外にも入院費やドナーの入院費など別途多額な費用がかかってくる。倫理的な問題も見逃せない。
「子宮は心臓や腎臓のように命にかかわる臓器ではないので、生殖医療のための臓器移植が妥当なのかという議論がある」(吉村教授)
現在、日本移植学会では「重い病気や事故などにより臓器の機能が低下し、移植でしか治療できないかた」を想定しているため、生命維持に必須ではない子宮は対象外なのだ。
金沢大学で医療社会学が専門の日比野由利助教は「身内に子宮提供の社会的圧力がかかる可能性がある」と指摘する。
「貧しい他人に出産リスクを押しつける代理出産より、子宮移植では産みたい人自身が自分でリスクを背負うので倫理的に問題が少ないという考えがありますが、果たしてそれでよいのか。
『母親はもう閉経していて、必要ないから子宮を摘出してもいい』と簡単に考え、周囲から『母親なら提供して当然』というようなプレッシャーをかけることになりかねません」
※女性セブン2014年9月18日号