70年ぶりということは、前回の感染は戦時中のこと。当時は東南アジアから引き揚げてきた軍関係者も多く、日本人にとってこの感染症は決して縁遠いものではなかったようだが、検疫や衛生状態が向上した21世紀の日本で突如広まったデング熱禍は54ヘクタールの代々木公園を封鎖する大騒ぎとなった。
情報番組のロケ中に感染した女性タレントらを含め、9月4日までに確認された感染者は12都道府県の56人。だが、50~70%は高熱などの症状が出ないために、実際の感染者は数百人と見られている。
すでにウイルスをバラ撒いた“犯人”が、日本に生息する「ヤブ蚊」の一種、ヒトスジシマカであることは広く報じられている。都感染症対策課は代々木公園の10か所で276匹のヒトスジシマカを採集。このうち4か所で採集した蚊からウイルスが検出された。感染免疫学・熱帯医学に詳しい人間総合科学大学の藤田紘一郎・教授はこう語る。
「蚊の寿命は1か月程度で、その間に吸血するのは2~3回だけ。感染者数を考えればウイルスを持つ個体は100匹前後と思われます」
では、そもそもウイルスはどうやって日本に“侵入”したのか。藤田教授が続ける。
「代々木公園では8月2日、3日に『アセアンフェスティバル』というイベントが開かれ、デング熱の流行地域である東南アジアから多くの人が訪れていました。この時にウイルスのキャリア(感染しているが発症していない状態の人)を吸血した蚊が、その後に日本人を刺したと考えられます」
ヒトスジシマカの行動範囲は最大で1キロ強という。代々木公園を起点とすれば、南北は新宿駅~渋谷駅の範囲だが、この範囲には安倍晋三・首相や麻生太郎・副総理の邸宅もある。国のナンバー1、2が揃って感染するリスクはないのか。
「森の中で生息する蚊なので、新宿や渋谷の繁華街でウイルスを媒介することは考えにくい。また、感染拡大にはキャリアと蚊がいずれも相当数いる条件が必要なので、今回の感染拡大の状況自体、日本国内では極めてレアケースです」(同前)
ただし都保健所関係者にいわせれば、「発症しても解熱剤を飲んで回復した人もいるはず。70年ぶりというと大仰に思われがちですが、実際にはこれまでにも国内で感染者がいた可能性は十分にある」とのこと。
大騒ぎするほどの話ではないかもしれないが、すでにこの伝染病は日本に土着している可能性も考えておくべきだ。
※週刊ポスト2014年9月19・26日号