安倍晋三政権の政策決定は「政高党低」ともいわれるが、その実態はいかなるものか。果たして本当に「政高」なのか。だが、実際は官僚主導と見られてもおかしくない。官僚が作った政策や法案をチェックする自民党の政策責任者は政調会長だ。かつては「当選7~8回で官僚と議論できる閣僚経験豊富な幅広い政策に通じたベテラン議員が就くポスト」(自民党OB)とされていた。
今回の内閣改造・自民党役員人事で総務相に就任するまでその役職にあったのが高市早苗氏だが、その仕事ぶりは、「高市さんは政調の各部会で積み上げた結論でも、官邸に伝えてダメ出しされると『官邸の意向です』のひと言で全部ひっくり返す。政調の幹部たちはすっかりやる気がなくなった」(自民党元役員)という惨めな実績だ。
新聞・テレビは「政高党低」という言葉をまるで首相の政策決定力が強いかのような意味で使っているが、実態は自民党が政策審査能力を失い、官僚が作った法案がチェックされないまま国会で成立する与党の機能不全を意味している。
その結果、通常国会では厚労省の労働者派遣法改正案で「1年以下の懲役」という罰則規定が「1年以上の懲役」と誤記されたまま国会提出されるなど、前代未聞のミスが相次いだ。自民党の議員にチェックする能力がないから役人のタガも緩みっぱなしなのである。
しかも、安倍首相は高市氏の後任の政調会長に当選わずか3回の稲田朋美・前行革相を起用した。キャリアからはとても「幅広い政策に通じている」とは見えない。政治ジャーナリストの野上忠興氏が語る。
「安倍首相は官邸主導で決めるから政調会長などお飾り的でいいと考えているのではないか。安倍首相の父の晋太郎氏は大蔵委員長、農林大臣、官房長官を経験してから政調会長に就任し、脇を政策通の議員で固めていたから、政策の説明に来る役人はピリピリしていた。それに比べれば今のような軽量級の方が官僚にとって扱いやすいだろうが、政策を議論する緊張感はなくなる」
※週刊ポスト2014年9月19・26日号