扉を開けて店内に入ると、ママがいつもの変わらない笑顔で迎えてくれる。カウンターの常連客は上機嫌で歌謡曲を熱唱。別の客は乾き物をつまみながら、ウイスキーの水割りを1杯…スナック、そこは人生の止まり木でもある。仕事帰りに夫が通っている店があれば、郊外には家族ぐるみで通う店もある。
紹介するのは2軒の人気スナック。まずは東京・品川区南大井にある「スナック基」から。75才、18番は森昌子の『夫婦舟』という雪江ママは1976年に開店してから38年間、年中無休で店を開けている。
「お客さんは家族、そしてスナックは家です。“家族”がいつ帰って来てもいいように、年末年始だろうがお盆だろうが店を開けているんです」
雪江ママはその言葉通り「家族」のようにお客と接している。独身の男性客が体を壊して入院した時は、毎日お見舞いに行って世間話の相手になった。バツイチの男性客が病気で亡くなった時は、その子供と一緒に葬儀を取り仕切った。
「何十年もやっていると、家族で通ってくれるお客さんがいるけれど、その息子をはたいたことがありました。その息子が20才のころ、不良っぽくなっちゃって、入れ墨を入れて自慢気に私に見せに来たんです。“親にもらった体になんてことすんの!”って思いっきりビンタしました。私には3人の子供がいるんだけど、初めて“子供”に手を上げました」
ビンタで目が覚めたその男性は、まじめな社会人になり、今では中学生の子を持つ父親になった。
「この前、親子で来てくれたんです。子供はお茶を飲んで、カラオケで今っぽい曲を歌っていました。親子3代で来てくれたんです。幸せです」
一人暮らしの男性には煮物や野菜炒めなどの“お土産”を持たせて帰す。実母よりも優しく、そして本気で怒ってくれるママなのだ。
そして2軒目は東京・目黒区鷹番にある「スナック純」。人気の理由は学芸大学駅の真木よう子といわれる純子ママの存在だ。彼女は美人ママとして、テレビや雑誌に登場したこともあるほどで、お客に口説かれることは日常茶飯事だ。
「誕生日プレゼントに、生まれ年のロマネコンティをもらったことは何度もあります。今年の誕生日は、常連さんにレストランで祝ってもらって、リムジンで店まで送ってもらいました」
そんなママが口説かれる際に気をつけていることは「相手を傷つけないこと」だ。
「うまく遠回しに断るというか…気を持たせることになってしまうかもしれませんが、お客さまを傷つけるのは、私のスナック流儀に反するんです」
ちなみに純子ママの18番は松田聖子の『抱いて…』。この店には、傷ついてばかりのサラリーマンたちを傷つけないママがいる。
※女性セブン2014年9月18日号