今回の内閣改造・自民党役員人事では消費税を10%に引き上げを悲願とする財務省の思惑が反映された形になった。谷垣禎一幹事長をはじめとし、増税派が中枢に君臨することとなったのだ。
安倍晋三首相はデフレ脱却への期待感から高い支持率を得てきたが、消費税の10%への再引き上げでさらに景気が悪化すれば、支持率が急落する危険が高いことを感じているはずである。首相の経済ブレーンからも、「(予定通りの実施は)難しいのではないか」(内閣官房参与の本田悦朗・静岡県立大教授)と増税延期論が出ている。
それなのに財務省の意向に逆らえないのは、国民より財務官僚の信頼を失うことが怖いからだ。安倍首相は7年前の第1次政権でその怖さを身をもって経験した。
当初は小泉政権から引き継いだ圧倒的多数を背景に公務員改革を進め、財務省の天下り先に大鉈を振るって政府機関の統廃合に取り組んだ。だが、半年経たないうちにその威勢は消し飛んだ。第1次安倍政権の元閣僚が振り返る。
「閣僚のスキャンダルや消えた年金問題がリークされ、支持率が落ち目になると、財務省は全くいうことを聞かなくなった。そうなると内閣はひとたまりもない。官邸は閣議の際に大臣たちが総理に挨拶もしない“学級崩壊”状態に陥った。あの時のトラウマがあるから、安倍総理は政権に返り咲くと政府系金融機関のトップに財務省OBの天下りを認めることで7年前の償いをせざるをえなかった」
財務省の尻尾を踏めば大メディアまで敵に回る。
やはり7年前、安倍首相は新聞の宅配制度を支える「特殊指定(※注)」見直しに積極的だった竹島一彦・公正取引委員長を留任させた。その人事でさらなる窮地に陥った。
【※注】特殊指定:地域や読者による異なる定価設定や値引きを原則禁止する仕組み。
「財務省と宅配を維持したい大手紙側は竹島さんに交代してもらう方針で話がついていた。ところが、安倍総理が留任させたことから、財務省は『安倍政権は宅配潰しに積極的だ』と煽り、それまで親安倍だった読売などのメディアとの関係が冷え込んだ」(自民党関係者)
財務省の天下り先を潰しただけで、それだけの報復を受けたのだ。その後、自民党から政権を奪い、「総予算の組み替え」で財務省の聖域である予算編成権に手をつけようとした民主党政権の悲惨な末路を見せつけられた。
※週刊ポスト2014年9月19・26日号