年金は国が自動的に「くれる」ものではない。私たち自身が制度を知り、知恵をたくわえなければならない。なぜなら年金は「申請しないと受け取れない」ものだからだ。制度を知らないと損をする、逆にいえば、制度を知れば得するのが年金の本質だ。
「2015年・年金大改悪」の議論は、なぜか霞が関ではない場所でひっそりとスタートした。
ほとんど報じられていないが、8月20日、厚生労働省の社会保障審議会年金部会が東京・南青山にある「農水省共済組合南青山会館」の会議室で開かれた。
同部会が開かれたのは、5年に1度年金財政を点検する「財政検証」が発表された直後の6月下旬以来、約2か月ぶりのこと。財政検証で打ち出された「受給額をもっと減らさなければ年金制度は維持できない」というシナリオに基づき、いよいよ本格的に「年金大改悪法案」作りに着手したわけである。
議論のテーブルを囲んだのは、厚労省の大臣官房審議官(年金担当)、年金局長、財政検証を担当した数理課長、年金課長や学者ら25人。その場で配られたA4判7枚のペーパーには、「検討課題」として様々な改悪案が記されていた。
今後、国民の年金はあらゆる手で減らされ、逆に徴収される保険料は増えていく。どんな大改悪が我々を襲うのか。もっとも影響が大きい改悪が、受給額を年々減らしていく「マクロ経済スライド」という仕組みを本格的に発動させることだ。
年金はかつて「物価スライド制」という、物価が2%上がれば受給額も2%上がるシステムだった。それなら物価が上がっても実質的価値は下がらない。ところが10年前、小泉政権の年金改悪により「マクロ経済スライド制」に移行した。
簡単にいえば「年金自動カット装置」で、物価が2%上がっても受給額は「マイナス0.9%」の1.1%しかアップさせないという仕掛けである(名目の受給額は増えるが、実質的な価値は下がる)。
年金博士として知られる社会保険労務士の北村庄吾氏が指摘する。
「この『自動カット装置』はデフレ下では発動しないシステムだったため、今まで受給額カットはされませんでした。
厚労省はデフレ下でもそれを適用させる案を検討しています。たとえば物価がマイナス1.1%だったら、そこからさらに『マイナス0.9%』されて受給額は2%カットとなるわけです。そうなれば実質的価値は毎年どんどん減っていくことになります」