9月27日に最終回を迎えるNHKのドラマ『花子とアン』は、大正時代を生きる女たちの“道ならぬ恋”が話題になった。しかし、史実をひもとくと、この時代の恋愛事情は、ドラマよりずっと過激だ。風俗史家の下川耿史(こうし)氏が、大正~昭和初期の庶民の風俗事情を振り返る。
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明治後期から大正初期になって自動車が走り始めると、「同乗ガール」が登場した。
これは女が自動車に乗せてもらうかわりに運転手に体を提供するというもの。金銭を要求した女が運転手と大喧嘩になって新聞紙上を賑わすこともよくあった。 自動車の持ち主からすれば「乗せてやったのに、さらに金を要求するのか」というわけだ。また、自動車を持つ男の間では東京郊外に妾宅を構えることが流行した。
昭和に入ると、街頭に立って客を取る「ストリートガール」、1回50銭でキスを売る「キスガール」が登場。円タク(1円均一のタクシー)の助手席に乗り客をもてなす「円タクガール」の中には、色仕掛けで客を集める者も多かった。
恋愛事件や新手の性産業が興る背景には、男性の欲望があるだけでなく、出たばかりの自動車に乗り、ダンスホールに通うなど、流行に敏感な女性の“行動力”がある。
実は時代ごとに変わる規範にとらわれているのは男のほうで、女はいつも持ち前の行動力を発揮しているだけなのかもしれない。
※SAPIO2014年10月号