4月の消費税アップを前に大新聞は「増税に耐えられる日本経済」を演出していたが、それが偽りだったことが明らかになってきた。「値上げラッシュの秋」が到来し、国民生活に致命的なダメージを与えている。
コーヒー、缶詰、乳製品、航空運賃などの値上げは、家計に深刻な影響を与えることになる。今秋から値上げに踏み切る企業の声を聞くと、悪材料に事欠かない。
マルハニチロの広報担当者は「鮭などの世界的な需要増による原材料の価格上昇、漁獲量の減少などが値上げの理由。原油高により出漁する船が減っていることも、漁獲量に影響していると思われます」と語る。
雪印メグミルクは8月以降、乳飲料やヨーグルト、家庭用チーズの値上げも実施してきた。いずれも「原材料の乳価が4月から上がったことが理由」(広報部)だ。スカイマークも「燃料による調達コストの上昇と競争激化による業績悪化」(広報課)を理由に挙げた。
つまりアベノミクスで需要が高まり「品薄だから値上げ」ではなく、ほとんどは「売れないのに値上げ」に追い込まれているのだ。
「実体経済の悪循環が解消されていないから、賃金も上がりません。それなのにモノの値段だけが上がっていく。不況下のインフレは『スタグフレーション』と呼ばれ、マクロ経済にとっても国民生活にとっても最悪のシナリオですが、その状態に近づきつつある」(大阪経済大学客員教授・岩本沙弓氏)
スタグフレーションの事例としては1960年代後半以降のイギリスが知られている。主要産業の国有化などで企業の競争力が落ち経済は停滞。「英国病」と呼ばれるその状況にオイル・ショックが重なり、物価上昇率は10%を超えた。その後、マーガレット・サッチャー首相が構造改革に着手したが成果を出すには時間を要し、その間に失業率も10%超となった。英国病の克服が宣言されたのは2001年のことだ。
そうした長い迷宮に日本も入り込みかねない。都内の一部飲食店で「5年ぶりの50%割引キャンペーン」が話題になったが、それは日本経済が「値段を下げないと売れない状況」を脱していないことの証左なのだ。5年ぶりとはつまり、リーマン・ショック以来の深刻な不況にあることを示している。
そんな中で、安倍政権が財務省の言いなりに増税へと突き進めば、「悪いインフレ」はさらに加速する。そうなってからアベノミクスの嘘に気付いても遅い。国民は今度こそ「増税NO」の声を上げるべきだ。
※週刊ポスト2014年9月19・26日号