なぜ「中国毒食品」はなくならないのか。その根底には、日本人とは相容れない中国人特有の「衛生観念」があるはずだ──そのことを間近で観察するため、上海の寿司屋にバイトとして潜入した上海在住のジャーナリスト・西谷格氏が、その“無法ぶり”をリポートする。
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出勤初日。ショッピングビル2階の店舗へと定時15分前に行ってみたが、誰もおらず、カギも掛けられたまま。しばらくすると5分前になってようやくリーダー風の男性が現われ、カギを開けてくれた。時間感覚が相当ユルい。
作務衣風の縞模様の制服を私服のTシャツの上から羽織り、黒い帽子とエプロンを着用する。日本で寿司屋の板前というと白衣のイメージだが、汚れを目立たなくするためかすべて黒系で統一されていた。
寿司カウンターに立って周囲を見渡すと、厨房内は一見してそれほど不衛生ではなかったものの、仔細に観察を続けているとギョッとした。寿司を握っていた先輩社員の手元を見ると、マグロとサーモンの切り身の並んだトレーが、作業台の上に常温で放置され続けているのだ。
店内はエアコンが効いているとはいえ、生魚を保存できるような温度ではない。サーモンは色がくすんでぐにゃりとしなり、マグロは水分が抜けて赤黒くしなびている。品質が劣化しているのは明らかだった。先輩社員に「外に出しっぱなしなんですね」と指摘すると、彼は「本当は氷を敷くんだけどね」と口ごもり、いったん冷蔵庫へしまった。だが、30分後には元通りになっていた。
鮮度を気にしないのには理由がある。店で出される寿司のほとんどが、マヨネーズ焼きで出されるからだ。出来上がった寿司の上からコショウやガーリックパウダーを振り、関西風のお好み焼きのように大量のマヨネーズを線状に垂らすのだ。さらにガスバーナーであぶるので、鮮度の悪さは完全にごまかせる。厨房の中で一口食べてみたが、こってりと油っこくて、寿司とは似て非なるものだった。
またスタッフは仕事中、手洗いというものを一切しない。仕事を始める前やトイレなどに行った後でも、何もせず平然と素手で食材を触る。たまに手洗いをするとすれば、サーモンをさばいたあとなど自分の手がヌルヌルして不快になったときだけ。基準は自分本位なのだ。
※SAPIO2014年10月号