中国では習近平国家主席が大々的に展開している腐敗一掃キャンペーンで、共産党幹部や企業幹部が相次いで自殺している。習主席は「虎だろうが、蝿だろうが、一緒に叩く」と豪語しているが、実は腐敗幹部ならば大物だろうが、小物だろうが、次々と自らの命を絶っているのだ。中国問題に詳しく、『習近平の正体』(小学館刊)の著者、ジャーナリストの相馬勝氏が解説する。
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9月14日朝、山西省運城市の幹部、董学剛氏が住居のマンションの屋上から飛び降り自殺した。董氏は同市経済・情報化委員会のトップである党組書記兼主任を務めていた。まだ51歳の若さで、今後も運城市やその上の省幹部への出世が期待できる人物だった。
大学を卒業し、地元の県政府に就職してから3年後に入党。2006年に副県長になるまで、20年かかっており、それほど出世が早い方ではなかったが、着実に仕事をこなしてきた実務派タイプで、昨年7月には、中国の行政単位としては県よりも上の運城市の経済・情報化委員会トップに昇格し、これからというときだった。
ネットニュースの中国放送網によると、自殺の具体的な原因は「まだ不明」だが、董氏は最近、ふさぎ込むことが多く、腐敗問題に絡んでいたとの観測が浮上しているという。
「中国は事実上の一党独裁国家なので、いったん目を付けられた幹部は逃げることができず、大きなストレスを抱え込む」と専門家は述べている。腐敗撲滅キャンペーンが激化しているため、党や政府、企業に関わらず幹部は戦々恐々としているようだ。
中国青年報によると、中国では今年7月の1か月だけでも、少なくとも6人の党幹部が自ら命を絶っている。さらに、昨年1月から今年4月までに、捜査対象になった幹部54人が「不自然な死因」で死亡しており、このうちビルから飛び降りた8人を含む22人が自殺だったことが分かっている。
他の幹部もいつ「明日は我が身」となるかもしれず、日ごろの仕事が手につかなくなり、経済プロジェクトを中心に目標達成率が急減。中国国務院(内閣)は地方や中央の機関に「怠惰で緩慢な傾向」がみられ、何も達成していない機関もあったと異例の発表を行なったほどだ。
ロイター通信が「経済に劣悪な影響を及ばす」と論評したところ、楼継偉・中国財政相は記者会見で「反腐敗運動が経済成長を阻害しているという考えは間違っている」と、これまた異例の反論を行なった。
楼氏の指摘通り、今年第2四半期の経済成長率は7.5%増と順調だったが、キャンペーンの激化が徐々に人心に悪影響を及ぼしつつあるのは間違いないようだ。
北京の党幹部は「自殺者の急増はまさに異常だ。自己批判を強要するなど、政治的に大きな混乱の渦中だった文化大革命(1966~1976年)のようだ。文革のように、今後は腐敗一掃キャンペーンで、つるし上げが行われ、糾弾され実質的な殺人が日常化するのが怖い」と指摘している。