福田康夫元首相と習近平国家主席の「極秘会談」をはじめ、日中外交は一時の絶縁状態から新たな段階に進みつつある。日本はもっと賢く立ち回って、中国を活用すべきとする大前研一氏は、対中関係の改善はなぜ必要なのか答える。
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対中関係の改善は、近い将来のリスクヘッジにもなる。というのも、私は早晩、中国は崩壊すると考えているからだ。
今の中国は、共産党一党独裁で北京の中央政府がすべての手綱を握っているが、このまま今後も従来の7~8%成長を維持できるのかといえば、ほとんど不可能だと思う。
なぜなら、中国の成長を駆動してきた土地バブルが崩壊し始めているからで、国家統計局が発表した7月の住宅価格調査では、主要70都市の9割を超える64都市が前月より値下がりした。
これまでは共産党が農民に使わせていた土地を収奪して商業地に変え、その差額を地方政府がポケットに入れてきたわけだが、この方程式は無限に土地バブルが続くという前提で成り立っている。土地バブルがはじけたら、中央政府のきつい締め付けを我慢している人はいないだろう。
中央が手綱を引けば引くほど地方は造反し、民衆の不満は増大する。したがって北京の中央政府は遠からず倒れると思うのだ。
その倒れ方は二通りのシナリオが考えられる。1つは中央集権が緩やかに解体して北京の頸木(くびき)がなくなり、ドイツのように20程度の自治州に分かれて英連邦型の統治システムに移行するというケースだ。私が15年前から提唱してきた「中華連邦」の誕生である。
そうなった場合、各自治州が経済成長するために外国企業や投資の呼び込みを競い始めるし、省長や市長、書記など地方自治体のトップには日本と比較にならないほど優秀な実務家が多いから、中国は全体としては再び力強く成長し始めるだろう。
そのうち半分以上の地方政府は間違いなく日本が大好きだし、大半の中国人は質ではまだまだ日本にかなわないとわかっているから、日本企業に来てもらいたい、日本の技術を導入したい、日本の人材を招聘したい、民度を高める方法を学びたい……といった要望が殺到すると思う。
それらの地方と日本(あるいは日本の広域自治体)は個々に友好条約を結び、親密な経済協力関係を築いていけばよいのである。
もう1つの倒れ方は、いきなり全面崩壊するというケースだ。この場合は最悪で、日本にとって得なことは何もない。
まず、膨大な難民が日本に押し寄せてくるだろう。さらに、その時点で日中関係が冷え込んだままであれば、共産党は人民の目を国外に向けるため、日本に難癖をつけてくるに違いない。実にはた迷惑な話である。
したがって日本政府は、中国がいきなり全面崩壊する事態を避けて中華連邦のコンセプトに向かうよう、中国の識者たちに働きかけていかねばならない。
※SAPIO2014年10月号