1965年から1973年にかけて9年連続巨人が日本一を果たしたV9時代を初めから知るコーチ陣で唯一の存命者が、王貞治を世界の本塁打王に育てたことで知られる荒川博氏(84)だ。荒川氏が、故・川上哲治監督との思い出を語った。
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(川上氏は)打撃には一家言あるし、自分で研究して教えるのが好きな人でした。何しろ打撃の神様なんだから、教えれば選手はいうことを聞きますよ。でも、それじゃコーチは商売上がったりなわけです。
「オヤジさんが教えたら、選手はその通りにすれば試合に出してもらえると思うでしょう。お願いだから口を出さないでください」と抗議したこともある。
「悪い、悪い、オレの趣味なんだよな」と笑っていましたけどね。
そういえば数年前、川上さんが88歳の時、こんなことをいわれたことがあったんです。
「荒川、お前のバッティング理論は正しい。オレの方が間違っていたよ」
僕は咄嗟に「何をいっているんですか。神様であるオヤジさんにはオヤジさんの打ち方、王には王の打ち方があるんです」と慌ててフォローしましたが、40年近くたって、“神様”がそんなことを言い出したのには驚きました。野球から離れてもずっと考え続けて、出した結論だったのでしょうね。
※週刊ポスト2014年10月3日号