ウクライナ上空で発生したマレーシア航空機撃墜事件により、孤立が深まるロシアのプーチン大統領は、もともとKGBの出身だ。世界中に名を轟かせた情報機関・KGBとは一体どんな組織なのか? 落合信彦氏が解説する。
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こんな逸話がある。旧ソ連のフルシチョフ首相時代、モスクワのアメリカ大使館では、1か月に1回、必ず「掃除=スウィーピング」をしていた。掃除の意味は、ただのほうきを使った掃除などではもちろんなく、タッピングデバイス=盗聴器を発見する作業である。
それほどまでにKGBの盗聴が行なわれているなか、西ドイツから送り込まれた「掃除屋」、つまり盗聴器を発見する技術者が次々と盗聴器を発見し、そのたびに耳をつんざくような信号を送り、盗聴元のKGBに打撃を与えた。
だが、タダでは起きないのがKGBだ。作業を終えたその技術者が西ドイツに帰る際、記念としてロシア正教の教会を見に行った。そこで宗教画をまじまじと見ていたその技術者の尻に、急にものすごい痛みが走った。慌てて彼はアメリカ大使館に飛び込んだのだが、医師はびっくりしたという。放射能とマスタードガスでやられていたのだ。
急遽、NATO(北大西洋条約機構)本部がジェット戦闘機で数人の医師を送り込み、彼らの懸命の救護によって一命を取り留めたものの、その容貌は元に戻ることはなかった。朝、食事をもってきた看護師は彼の顔を見て思わず、お盆を落としてしまったという。彼の顔が、化け物のようになっていたからだ。
当時、西ドイツはソ連との関係を修復し、経済的援助を与える準備をしていたが、この事件によって西ドイツ政府は考えを変えた。そして結果的に、フルシチョフ首相は解任され、失脚した。
※SAPIO2014年10月号