北朝鮮による日本人拉致被害者らの再調査の第1次調査報告(中間報告)が遅れている。当初「夏の終わりから秋の初めにかけて」といわれていたが、北朝鮮の時間稼ぎに利用され、安倍晋三首相の描いた「9月電撃訪朝」はうたかたの夢と消えた。
北に騙されたいま、何より怖いのは、家族会から批判があがることだ。
そこで9月19日に第1次調査報告の延期が発表された後、山谷えり子・拉致担当相と伊原純一・アジア大洋州局長による家族会への説明会が行なわれる前に、いかにも政治家らしい姑息な手が打たれた。
秋の臨時国会で拉致被害者等支援法を改正して拉致被害者への給付金(2人世帯月額24万円)に加えて新たな支援策を打ち出す方針を決め、8月末の来年度予算概算要求で拉致被害者への生活関連経費を今年度の3500万円(5人分)から一挙に10倍の3億5400万円を計上したのだ。政府が認定している拉致被害者17人のうち、帰国したのは5人。たとえ17人全員分を予算計上したとしても、10倍は大盤振る舞いすぎる。
「拉致被害者の多くは年金受給年齢に近づいているが、拉致されていた期間は年金がない状況で、当然、その間は貯金もできなかった。そこでまだ帰国されていない拉致被害者を含めて全員が平均的な国民の水準の社会生活が営めるように手当を厚くすることを検討しており、予算要求額が増えた」(拉致問題対策本部)
もちろん、いくら生活支援の予算を増やされても、まだ救出されていない拉致被害者たちには恩恵はない。それでも、「帰国に備えて支援を手厚くする」といわれれば、家族会は思ったこともいえなくなるのではないか。
説明会の終了後、朗報が聞けるのではないかと期待していた家族会メンバーは失望を隠せない様子だったものの、安倍首相への批判は一切出なかった。拉致議連幹部は指摘する。
「安倍首相が家族会から信頼されているのをいいことに拉致を政権浮揚に利用しているから、北朝鮮や拉致官僚にいいように操られて、結果的に問題の解決を一層困難にしてしまっている」
※週刊ポスト2014年10月10日号