【マンガ紹介】『健康で文化的な最低限度の生活(1)』柏木ハルコ/小学館/596円
仕事や勉強など何かを始めたばかりの「新米」だった頃のこと、覚えていますか? 慣れてしまえば忘れがちなあの頃の気持ちを、最近思い出させてくれた作品があります。
柏木ハルコ『健康で文化的な最低限度の生活』の主人公は新卒公務員・義経えみる。福祉保健部生活課に配属が決まり、いきなり生活保護にかかわるケースワーカーとして働くことになります。
少し前に生活保護の不正受給が話題になりましたよね。一体なぜそんな不祥事が起きてしまうのか? シンプルに見える問いですが、簡単には答えられない難問であろうことが本作の第1巻を読んだだけでもビンビン伝わります。
一見明るいけれど子供を虐待しているかもしれない若い母親や、生活保護を受けることへの申し訳なさから何も言わずにガマンする男性。見た目や短い会話だけではわからない複雑な心情が次々に描かれ、対応の難しさにハラハラ。その上、えみるの担当ケースで自殺者が出てしまい…。
えみるは昔からマイペースと言われてきて、鈍感さをちょっと気にしているというキャラクター設定。「空気が読めない」「第一印象で人から好かれるタイプの人間じゃない」という不器用な主人公の姿が共感を呼びます。頼れる先輩から「新人だからこそできることもある」と励ましのアドバイスを受けるシーンには思わずグッときました。
生活保護の漫画というと構えてしまうかもしれませんが、かっこつけずに描かれる「新米」の奮闘には笑いあり涙あり。しっかりエンターテインメントでありつつ、貧困の重たい現実にもひたひた迫る注目作です。
(文/横井周子)
※女性セブン2014年10月9日号