米国では、ヤンキース・田中将大に対して「トミー・ジョン手術を受けるべきだ」という声が鳴り止まない。トミー・ジョン手術は米国人の外科医、フランク・ジョーブ博士によって考案された肘の腱の再建手術法である。1974年に初めて手術を受けたトミー・ジョン投手(インディアンスなど)にちなんで名付けられた。
野球の投球動作では肘部分にある「内側側副靱帯」を損傷しやすい。投球でトップポジションから腕を振る際、肘の外側には圧迫力、内側に牽引力が加わる。これを繰り返すことで内側側副靱帯が損傷する。
手術では損傷した肘の靭帯を切除し、患者の前腕や太腿などから、正常な腱の一部を摘出して移植する(前腕の「長掌筋腱」を使うことが多い。手の親指と薬指をつけた際に手首に浮かぶ筋)。
当時、成功率は100分の1といわれたが、無事成功。ジョンは現役通算288勝のうち164勝を術後に挙げた。これを契機に米球界では移植手術を受ける選手が増える。
「その後は移植した腱をより安定して固定する方法など改良が進み、手術自体の成績や競技への復帰率も良くなっています」(日本整形外科認定スポーツ医で京都警察病院の古川泰三診療部長)
今では手術の成功率は90%を超える。移植した腱が靭帯として安定するまでには相当な時間がかかるため、術後は肘を日常生活で支障なく動かせるリハビリからスタートする。腕の筋力を強化する筋トレなどに半年以上を費やし、実戦登板までには1年以上かかる。
※週刊ポスト2014年10月10日号