右肘が万全ではないヤンキース・田中将大に対して、米国では「トミー・ジョン手術」を受けるべきとの声が高まっている。
その背景には、「米球界の至宝」と呼ばれ2010年にメジャー入りしたスティーブン・ストラスバーグ(ナショナルズ)等の例がある。ストラスバーグはトミー・ジョン手術の後に160キロオーバーを連発するなど「術後のほうが速くなった」と騒がれた。ほかにも田澤純一(レッドソックス)のように、術後に球速が増したり、投球内容が改善した例は、数多く引き合いに出されている。
田中はトミー・ジョン手術を受けるべきなのか。アメリカでは「9割が完全復帰できる」といわれるほど成功率が格段に上がったとはいえ、日本人投手には失敗例も少なくない。
1979年から今年までの経験者は46人。マサカリ投法の村田兆治(ロッテ)や桑田真澄(巨人)ら見事な復活劇の裏で、大塚晶文(レンジャーズ)のように復帰できず、引退を余儀なくされた選手もいる(球団名は手術時)。
もっともその原因は手術ではなく、選手自身にあるかもしれないところが判断をますます難しくする。トミー・ジョン手術の生みの親であるフランク・ジョーブ博士は生前、こう語っていた。
「術後のリハビリをいかに我慢強く続けられるか。完治には相当時間がかかるのに、選手は少し良くなるとすぐに無理をしたがる」
リハビリはまさに我慢の連続だ。手術を受け、見事復活を果たした村田兆治氏の話。
「術後は毎日40度の熱が出て、小指が親指くらいの太さに腫れた。それが落ち着いたのは15日後くらいでした。退院後はスポンジを握ることから始めましたが、最初はスポンジを握るだけで指がむくむような状態。そもそも肘を伸ばすまでに3か月かかりました。
それから30球のキャッチボールを10メートルから始め、1か月ごとに徐々に距離を伸ばしていく。毎日、イライラと焦りの連続ですよ。自分は本当に復帰できるのかという不安も大きい。それに打ち克てるかどうか、正面から向き合えるかどうかが大切なのです」
逆にいえば、リハビリに気を配れば、ヤ軍の万全のサポート体制が望める田中にとって手術は有効な選択肢かもしれない。
田中に試験登板を課したジラルディ監督も「現状で投げられるならOKだ。そうじゃなかったら、この先の2~3シーズンを棒に振らないためにも手術を選択してもらいたい」とコメントしている。
※週刊ポスト2014年10月10日号