相続放棄の申立件数が大幅に増加している。相続人ベースで1993年の5万8490件から2013年は17万3166件と約3倍にまで膨れあがっているのだ。不運にも債務超過のため相続放棄しなければならなくなったとき、どんな手順をとればいいのか。相続放棄という言葉が一人歩きしている割に、実際の段取りについてはあまり知られていない。
手続きは被相続人が亡くなり、相続人が相続の開始を知った日から3か月以内と定められている。
この期間を「熟慮期間」といい、3か月を過ぎてしまったり、この間に財産の一部でも処分したりすると、財産や借金を引き継ぐとみなされる。これを「単純承認」という。
つまり実家に借金があるかどうかをきちんと確認するまでは財産に手を付けない方がいいということ。預金口座の解約、不動産の売却などは当然これに含まれる。ただし葬儀費用などで被相続人の遺産を使うことは、常識の範囲の金額であれば問題ないと考えられている。
亡くなった親が子供(相続人)名義で貯めていた銀行口座の預金を使うことも避けるべきだ。
『もめない相続、後悔しない贈与』(綜合図書刊)の著書があるファイナンシャルプランナーの相澤由佳氏がいう。
「親が手元で管理していて贈与の手続きがなされていない口座の場合、相続人名義だからといって手を付けると『単純承認した』とみなされます。その後に親の債務が発覚しても相続が取り消せず、相続放棄できません」
相続放棄を決意したら、親の住所地の家庭裁判所に戸籍謄本・住民票などとともに「相続放棄申述書」を提出し、手続きを開始する。
申述書には申述人や被相続人の情報に加え「相続の開始を知った日」や「放棄の理由」「相続財産の概略」「負債の額」なども明記する。
相続放棄が受理されると「相続放棄申述受理通知書」が送付されてくる。これをもって相続放棄が認められたことになる。相続放棄はいったん受理されると撤回できないため細心の注意を払いたい。
兄弟・姉妹など相続人が複数いる場合、全員が相続放棄するのが鉄則だ。もし1人でも手続きを忘れると、負債を一身に被ることになってしまう。
なお、相続から3か月を経過していたとしても、裁判所に上申書を添えて説明すれば、相続放棄が認められることがある。その際の手続きは煩雑であるため、弁護士や司法書士に依頼するのが望ましい。
※週刊ポスト2014年10月10日号