20年前の約3倍という数字が示すように、相続放棄をする人が増えている。住宅ローンや車などの遺品などがすぐに思い浮かぶが、相続でもうひとつの大きなテーマが、相続放棄した「家」の問題だ。
放棄したのだから、「実家の管理・処分をする責任はなくなるはず」と思いがちだが、ことはそう簡単ではない。
すべての相続人が相続放棄した場合、家裁は申立人の請求によって相続財産管理人(弁護士)を選定する手続きを開始する。相続財産管理人は、相続財産を処分して債権者に相当額を支払うなどの処理を行なう。
申立人となるのは利害関係人(多くの場合は被相続人の債権者)だが、そもそもこの申立人が現われないケースが多いのだ。
「利害関係人が申し立てする際には、相続財産管理人の報酬となる金額を裁判所にあらかじめ納める場合が多い。しかし相続財産に換価できる資産があるならともかく、地方の土地や廃屋などであれば金銭的には損にしかならない。そのため債権者が誰も申し立てしないということが起こる」(司法書士あかね法律事務所・伊藤献一氏)
そうして放置された家屋は近隣や地方自治体の悩みのタネになる。
民法940条では「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない」と定めている。つまり、「実家の家屋の処分」の困難からは相続放棄しても逃れられないのだ。前出・伊藤氏がこう解説する。
「もし放置された廃屋が倒壊するなどして負傷者や損害が出た場合には、元相続人が損害賠償責任を問われる可能性がある。地方自治体が行政代執行によって公費で解体・撤去した場合は、相続放棄したとはいえ管理義務のある最終の相続人に請求する可能性があります。そうしたリスクを減らすためには、コストをかけてでも自ら相続財産管理人を選定するという選択肢もあります」
資産のない実家の処分・片付けが面倒だから……といった安直な理由で相続放棄することは不可能なようである。親が遺してくれるのは決して潤沢な財産ばかりとは限らない。借金を引き継ぐ可能性とその対処法は相続を考えるうえで忘れてはならない。
※週刊ポスト2014年10月10日号