親の死後、残すのは「プラスの資産」だけではなく、「マイナスの資産」も存在する。現金、土地、建物、金融資産などの合計を上回る借金や債務があると、遺産相続によって“相続貧乏”になってしまう。親の遺産に救われるどころか、逆に足枷となってしまうケースは意外と多い。
都内在住のAさん(55)は九州で1人暮らしをしていた父親が80歳を過ぎて亡くなった後、銀行から多額の借り入れがあったことを知った。
「父親の葬式後に初めて借金がわかり、慌てました。年金暮らしの父の預貯金はほとんどゼロ、築年数が古い田舎の家屋でしたから売っても二束三文にしかならず借金は払いきれない。八方手を尽くしましたが返済手段は見つからず、相続放棄するしかありませんでした」(Aさん)
相続放棄の申し立て件数は年々増加しており、2013年は17万3166件。20年前(1993年)の5万8490件から3倍にまで膨れあがっている(件数は相続人ベース)。バブル経済の崩壊や起業・株取引の増加による債務超過が増えたことが主な原因と見られている。
相続放棄の手続きを行なうことができるのは原則として被相続人の死後3か月以内となっている。葬儀、納骨などと慌ただしい時期に、しかも大切な人を失った悲しみの中、資産と債務をまとめてバランスシートを作成し、相続放棄するか否かを判断しなくてはならない。
親の死後に借金を洗い出すことは、不動産や金融資産など「プラスの資産」の洗い出しと比較しても困難を極める。だからこそ、親の生前に「借金」についてできるだけ理解しておくことが肝要だ。
最近、毎週のように相続放棄の依頼があるという認定司法書士末次事務所の末次正明氏によれば「親の借金の内訳で、圧倒的に多いのが消費者金融からの借り入れ。銀行からの借り入れやクレジット会社のカードローンや住宅ローンも多い」という。
※週刊ポスト2014年10月10日号