近年、女性をターゲットにした刺激的な恋愛ドラマが受けている。最近では、夫のいない昼間に不倫する妻を描き、民放連続ドラマ2位の大ヒットで9月25日に最終回を迎えたドラマ『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』(フジテレビ)。そして、美貌の連続殺人容疑者を演じる広末涼子の過激なキスシーンやベッドシーンが「生々しくてエロい」と話題の『聖女』(NHK)。
片や背徳感のある不倫を題材とし、もう片方は、稀代の毒婦と呼ばれた木嶋佳苗連続不審死事件を彷彿させるテーマとなっている。なぜ今、エロスやタブーといった刺激的なドラマが増え、ヒットしているのか? ドラマ評論家の木村隆志さんはこう解説する。
「まず、題材がセンセーショナルであることと、最近、不倫を思い切って描いたドラマがあまりなかったこと。それに加えて『聖女』は、たくさんの男を騙して殺してお金をとるという木嶋佳苗事件を思わせる作りになっています。内容はセンセーショナルでも、中身は女性目線で、不倫にはしったり、罪を犯してしまうまでに至るところを丁寧に描いているから興味を惹きつけるのです」(木村さん、以下「」内同)
また、「ちょっと悪いことにも興味があり、背徳も嫌いではない」女性心理も受けた要因だと考察する。木村さんは、こう続ける。
「今は豊かで便利な時代ですが、日常生活がつまらないと思っている人が今すごく多くて、そこをうまく突いて作っています。題材は一見過激に見えるけど、描いているのは普通の人物です。斉藤工さんは髪がぼさぼさだったりしてかっこよすぎず悪すぎず、上戸彩さんも色気のなさを強調したりと、ほどよいファンタジーにとどめたからこそ“現実も悪くはないよ”と最後は現実に引き戻してあげられる。視聴者は、日常と少しだけずれた世界を観たいだけで、あまり振り切られてもつらいですから。
また、善悪を決めつけてしまうと観にくいし説教くさくなってしまうのですが、2作とも過ちかどうかを問いかけるところもうまく作っています。『昼顔』では旦那を完全な悪者ではなく、そこそこ嫌な感じにとどめているし、『聖女』も悪女なのか聖女なのかぎりぎりのところで推移していて、だんだん広末さんがきれいに見えてくるように最後までうまく泳がしている。そこの加減が上手でしたね」
『聖女』を放送しているNHKの『ドラマ10』はスタッフに女性を揃えて制作されており、『昼顔』も女性目線で作られていることが共に成功の要因でもあるという。
「聖女というタイトルですが、悪女を演じる広末さんは清純派といわれていながら佐藤健くんとの不倫を報じられたり、キャンドル・ジュンさんと再婚するまでの経緯も含め魔性のイメージがあり、ハマり役でした。これまで女性人気はなかった方ですが、木嶋佳苗という強力なネタと相まって、逆に、世紀の悪女を演じる広末さんを観てやろうという女性も多いと思います。さらに、実際に演じてみたらハマっていたというわけです」
大河ドラマで見せた西島秀俊の鍛えられた上半身が大反響を呼んで以来、男の裸を見せるドラマも増加傾向。『昼顔』のエンディングで男性の裸をひたすら見せる演出も、女性のニーズに応えたものだと木村さんはいう。
「ヒットした2作とも、ドロドロした内容なのに映像美があります。生々しいシーンは少なく、きれいなラブシーンばかり。“きれいでちょっとH”なものを観たいという女性のニーズは確実にあって、でも観る機会は男性に比べて極端に少ない。女性向けにエロティックなドラマが増えているのは、ニーズがあるのと他にコンテンツがないから。ドラマがそれを担っているのだと思います」
総括すると、勝因はどうやら“女性目線”にあるようだ。
「映像美、感情移入できるキャスティング、女心に訴えかけるモノローグ…。そこに男性の意図を入れず潔く完全に女性目線に振り切ったなと、この2作は感じました。作り方や演出まで女性の潜在意識をくすぐるように。他にそういうドラマがないから試験的にやっていたところもあるので、来年は女性向けタブードラマが増えると予想されます」