できたての料理と温かい家族との団らん。そんな当たり前の日常を知らない子供たちがいる。虐待や育児放棄などさまざまな事情で、親元で暮らせない里子たちだ。彼らを引き取って育てる里親たちの手料理は、里子たちに生きる喜びを届けてくれている。
A子さん(64才)は、中学卒業まで児童養護施設で育った過去をもつ。25才で結婚したが、なかなか子供に恵まれず、38才の時に生後11か月の男の子を預かり、やがて養子縁組。その後、里親として20人ほどの子供を預かってきた。
そのなかでも特に印象深い里子が、高校2年生の終わりから卒業までの約1年間だけ預かった少年だ。幼い頃から施設で暮らし、素行不良で手のかかる少年だったという。門限は午後10時と決めていたが、アルバイトや遊びで帰りが深夜0時を過ぎる日はしょっちゅうだった。
「お腹が空いていても、絶対に自分から“食べる”とは言わない子でした。“ご飯いらん”と言って、コンビニで買った菓子パンをよく食べていました」(A子さん)
A子さんと言い合いになって衝突したこともあった。少年は「お前に言われたくないわ、親でもないくせに」が口癖だった。
そんな少年が、ある寒い日の夜、帰宅した時珍しく「お腹、ちょっと空いてる」と口にした。その時にA子さんが作ったのが、土鍋で煮たラーメンだった。
土鍋で冷蔵庫にあった残り野菜を煮立て、そこに麺を入れてゆでる。調味料を加えて味をととのえ、わかめやちくわなども入れた。そして火を止める寸前に卵を落とし、蓋をする。心のこもった「1人ラーメン鍋」のでき上がりだ。
湯気の立つできたてのラーメンをひと口すすり、少年は瞳を潤ませてこうつぶやいた。
「お母さん、おしゃれやな、なんかおいしいな」
そして、あっという間に完食した。
「夜遅くに帰ってきたにもかかわらず、自分だけのために作られたラーメン。そんな“親”が作る夜食は彼にとって初体験だったんです」(A子さん)
少年は就職を機にA子さんの元から巣立った。岡本さんは、その時の喜ぶ様子が今でも忘れられない。
※女性セブン2014年10月16日号