プロ野球選手の引退セレモニーは“式次第”が決まっている。本拠地球場での試合後、スポットライトを浴びて立った選手にチームメートから花束が贈られ、本人がマイクでお別れの挨拶というものだ。
9月28日、QVCマリンフィールドでユニフォームを脱ぐことになったロッテ・里崎智也の場合も、そこまでは同じメニューだった。
ところが見せ場はその後だった。場所を球場正面の野外ステージに移し、里崎はマイクに向かってこう叫んだのだ。
「終電までに終わりますから一緒に歌いましょう!」
1曲目は球団公式ソングの『ウィー・ラブ・マリーンズ』で、里崎は歌いながらステージを走り回る。舞台の周りには5500人が詰めかけ声援を送る。
続く2曲目は『千葉、心つなげよう』。さらにアンコールに応え、3曲目にSMAPの『ありがとう』を高らかに熱唱した。ファンも「ありがとう里崎」と書かれたうちわを振って歓声を上げる。こうして“卒業ライブ”は終了した。
歌い終えた里崎は楽屋(ロッカールーム)に戻って、「最高だね。こんな形で引退する選手はいないでしょ。最後に伝説を作ってやりました」とご満悦だった。
実はこの球場ライブは9年ぶり2度目の“怪挙”である。2005年4月9日の試合後、ファンサービスのために自慢の歌唱力を披露したのが発端だった。
これで手応えを掴んだか、2008年には球場近くのホテルで「プロ入り10年を祝うディナーショー」を自ら企画。会費1万2000円(子供は半額)と強気の価格設定ながら400人を集めた実績もある。
その時は、黒のベロアのスーツに真っ赤なシャツといういでたちで、嵐の『ラブ・ソー・スウィート』を謳いあげながら各テーブルを回るという、歌手顔負けの演出でファンを魅了。トークでは涙ぐむ場面もあり、予定時間を1時間もオーバーする大盛況だった。
その締めくくりには、「僕のためにこんなに集まってくれてありがとう。来年は、1人優勝祝賀パーティーをやります!」と約束。だが翌年ロッテは5位に沈み、念願を果たせなかった。
今回の引退セレモニーは、その時のリベンジだったのか。カラオケ好きの選手は多いが、ライブまで開くのは里崎が最初で最後だろう。
※週刊ポスト2014年10月17日号