「3月ヒラメは猫またぎ」とはヒラメの旬を表わした言葉だが、もう通じなくなりつつあるようだ。「鮨 銀座 天川」の星廣幸氏によると、産地の広がりが魚の旬に影響しているという。
「僕はこの世界へ入って40年。以前、ヒラメは東京湾で揚がるものが中心で、3月を過ぎたら旬が終わっていると考えられていました。ですが、今では青森産も使われているので6月までおいしい。旬が延びたといえます」
年ごとに旬が変わるネタもあると語るのは、明治元年創業の築地仲卸「尾辰商店」社長・河野竜太朗氏だ。
「例えばサンマ。かつては盆過ぎに初物が出ていましたが、今では時期がどんどん早まり、いつのまにか7月後半になりました。一方で、今年は9月頭になってもあまり獲れませんでした。年による変化が大きいのです。
イワシは梅雨時がいいといわれていますが、去年は時期外れの12月に立派なイワシが揚がりました。温暖化にともなう漁場の移動などが原因でしょう」
船の性能や鮮度管理技術が向上し、遠方での漁や名産地以外での流通が可能となり、旬の捉え方も変わってきた。
例えば、サンマはこれまで酢でしめるかあぶりで提供されることが普通だった。鮮度管理技術があがったことで生で流通できるようになり、今では生サンマが人気の鮨ネタに仲間入りしている。
昔に比べて極端に流通量が減ったネタもある。星氏が語る。
「シマアジは夏の魚で5~8月が旬です。しかし、今はほとんど獲れなくなってしまった。かつては夏の風物詩でしたが、天然のシマアジはほとんど獲れず、養殖モノばかりになってしまいました」
旬は移ろう。だからこそ、旨い鮨と出会えた時の喜びは大きい。
※週刊ポスト2014年10月17日号