映画化された『永遠の0』、本屋大賞を受賞した『海賊とよばれた男』など、ミリオンセラーを連発している百田尚樹さんの最新刊『フォルトゥナの瞳』(新潮社)は「他人の死が視える青年」の物語。
「人間は数秒先のこともわからない。それやから人生は面白いんですけれども、もしも人の運命を視ることができたらどうやろかと、ぼんやりと考えたのがきっかけでした」(百田さん、以下同)
もうすぐ三十路を迎える主人公・木山慎一郎は天涯孤独の人生を歩んできた。そんなある日、自身の中に眠る「ある能力」に気がつく。決して知りたくはない「他人の死」が視えた時に彼はどんな選択をするのか? この作品のテーマは「運命」と「選択」。他人より先に未来を知ることで苦悶する慎一郎。定められた運命を変えることの是非は?
「ビリヤードで球をポーンと打つと、ポン、ポン、ポンと他の球もあちこちに変化しますよね。これは人間関係にもいえると思うんです」
もしも、今の奥さんと出会わずに別の女性と結婚していたら…。百田さんはそんな疑問を持った。
「もし今の嫁さんと結婚していなかったら、別の女性と結婚していただろうし、別の子供がいた。嫁さんも違う男性と結婚して、違う子供が生まれていて…。すると、その男性と結婚するはずやった女性も別の男性と結婚したかもしれない。そう考えると、ぼくが今の嫁さんと結婚しないだけで何百人、何千人の人生が変わるかもしれない。いや、人生だけじゃなく、社会全体も変わっていたかもしれない。運命というのはナンボでも変わりますね。不思議ですね」
そんな着想から始まった『フォルトゥナの瞳』は「58才の現在だから書けた小説だ」という。
「これまでの人生で何人も死んでいった人たちを見てきました。自分自身だっていつ亡くなるかわからないし、死が身近になりつつあります。今回はいろいろなことを自分に引き寄せながら書きました。決して若い時には書けなかった物語です」
主人公は恋人・葵と運命の出会いを果たし、さらに苦しい選択を迫られることに――そこから先は本書を楽しみにしてもらうことにして、改めて、百田さん自身のこれまでの「選択」と「後悔」を聞いた。
「ぼくはあんまり後悔しないタイプなので、自分の選択は全部よかったと考えます。いろいろあったけど結果的にこれでよかったのだと。仮に、事故で体が不自由になったとしても、右腕1本で済んでよかったとポジティブに考えるタイプです。過去を後悔したらやり直せるものなら、ナンボでも後悔するけど、やり直せないものを否定的に考えるのは無駄なことでしょ? ぼくはケチなので無駄なことはしたくない(笑い)。過去は過去。大切なのはここから先!」
(取材・文/長谷川晶一)
※女性セブン2014年10月23・30日号