【書評】『私を通りすぎた政治家たち』佐々淳行著/文藝春秋/1650円+税
【評者】山内昌之(明治大学特任教授)
体調が万全でない佐々淳行氏が、これだけは書いておくという気迫でまとめた政治家のリーダーシップ論である。遠慮がない人物月旦には驚かされる。
小泉純一郎氏は「空き交番」の問題を解決して地域の治安をきちんと守ろうとした点から、国家安全保障にいたるまで幅広く国と国民の安全を考えた「ステーツマン」として評価が高い。「在任中ろくなことをしていない三木武夫」「私用を諫めると怒り出した加藤紘一」などは、見出しだけで内容が想像できるだろう。
加藤氏が夜の宴会の掛け持ちに大臣公用車を使うために、運転手が疲労で事故を起こしそうになった話には驚く。護衛官(SP)を平気でゴルフコースに連れていき、普通の靴でグリーンを歩くのでゴルフ場から抗議が出たというのだ。
防衛庁長官として知りえた情報を特定の新聞に流し、「好き嫌いによる人事」をした例も示される。登庁して一番に円ドルの為替レートを聞き、ドル買いとドル預金をしていた時期もあった人らしい。加藤氏は防衛庁長官失格で「つまるところはポリティシャン」だという厳しさである。
異常なくらいの官僚嫌いの小沢一郎氏、「本当にいい人なんだなぁ」と感心する小渕恵三氏、人びとの能力評価と人心収攬術にたけた竹下登氏の比較は本当に面白い。「怒鳴ったり威張ったりする人で、非常に無作法でもあった」と形容する小沢氏を、よくよく嫌いなのだろう。
立場や思想が違っても評価できる人が世の中には必ずいると指摘する公平さも忘れない。共産党の上田耕一郎氏や不破哲三氏は、首尾一貫した主張やメリハリの効いた言動で評価されるようだ。
二人のところで引き合いに出されるのは菅直人氏や加藤紘一氏だ。ステーツマンとして評価される安倍晋三首相に“私利私欲”はないというのは、正鵠を射ているのだろう。また、民主党では前原誠司氏、松原仁氏、長島昭久氏がステーツマンになると期待している。「最後の手記」とは言わずに、これからも警世の書をどしどし書いて欲しいものだ。
※週刊ポスト2014年10月17日号