「万が一、警護する要人に危険が迫れば、真っ先に身を挺して守ります。死と隣り合わせなので、常に部屋はきれいに片付けて出勤します」
身長166cm、スレンダーな体躯を包む黒のスーツ姿で、そう話す女性は、SP(セキュリティポリス)の石井美幸さん(41才)。SPとは、警視庁警備部警護課所属の警察官だ。内閣総理大臣や閣僚、衆議院議長、参議院議長、最高裁判所長官など、VIPたちの身辺警護に当たる。
「4万人以上いる警視庁の警察官のなかで、SPには約200~300人とほんのひとにぎりしかなれない。女性ともなればそのうち1割にも満たない。SPは警察官の花形なのです」(警察に詳しいフォトジャーナリスト・菊池雅之氏)
屈強な男性に交じり、危険と隣り合わせの現場で働く女性SPに、その苦労と覚悟を聞いた。
石井さんは埼玉県出身。会社員の父と専業主婦の母の間に生まれた。子供の頃から正義感が強く「何か人の役に立ちたい」という思いがあった。高校生のとき、偶然テレビでSPを特集した番組を見て警察官を志望した。
1994年、短大を卒業して警視庁に採用された。「いつかSPになりたい」という希望を胸に13年間懸命に働いた。そしてSPになるための面接を受け、見事選考をパスした。講習期間を経て、2007年2月、念願のSPに配属された。
「倍率は高く、講習を終えても空きがなければ配属されません。5年、10年経っても配属されない人がいるなかで、私は幸運にも講習の翌年に配属されました。ようやく夢をつかんだうれしさでいっぱいでした」(石井さん・以下同)
配属されて最初に担当したのは、第一次安倍内閣時代の安倍晋三総理の警護。通常は2~3人のSPで1人の警護に当たるが、総理担当のSPは20~30人の大所帯。
国会や外国要人との会合などの際には、石井さんは先発部隊として事前に現場に入り、不審物がないか入念にチェックする。小さな見過ごしが大事件につながる可能性があるため、一秒たりとも気が抜けない。また時には総理のそばに寄り添って、周囲に不審な動きがないか目を光らせる。
食事やトイレはわずかな空き時間に交代で速やかに済ませる。なるべくトイレに行かなくて済むよう、朝はお茶や味噌汁を飲まない人さえいる。
「トイレが近くなるからといってコーヒーを飲まない人もいます。時には8時間も10時間も飲まず食わずで過ごすこともあります」
勤務中は常に気を張り続けた状態でいるため、配属当初は石井さんをそれまでに経験したことのない重圧が襲った。
「へとへとに疲れて家に帰るのに、寝ようと思っても寝つけず、やっと寝られても夜中に目が覚める。目覚ましをかけてもそれより早く起きてしまう。その繰り返しでした」
※女性セブン2014年10月23・30日号