安倍改造内閣はなぜ、こんなに「内閣府特命担当大臣(以下、特命相)」が多いのか。事実としては政治記者ならだれでも知っているのに、その理由となると、なぜかほとんど語られない。私は「官邸の政治主導を貫徹するためだ」とみる。
まず実態をみよう。閣僚は総理以外には18人。うち特命相は各省大臣の兼務を含めると8人だ。彼らは形式上、官房長官の部下にもなる。だから、兼務部分を除けば閣僚の半数近くが官房長官の下で仕事をしている形になる。
菅義偉官房長官といえば、政権を支える大黒柱として知られているが、豪腕を発揮できる理由の1つがここにある。
たとえば昨年12月に決まった薬のインターネット販売問題だ。法律上は厚生労働相が権限を握っている。だが、実際には菅長官と特命相の甘利明経済再生相、同じく稲田朋美行革相(当時)を含めた4大臣会合で決着した。
医薬品の販売は厚労省の既得権益そのものだから、厚労省だけに任せておいたら、まず絶対に改革は進まない。そこで官房長官と2人の特命相が関わることによって、改革の議論を前に進めたのである。結果は必ずしも合格点と言えなかったが、厚労省任せにしたら、もっとひどくなったのは間違いない。
特命相を増やせば政治主導が進むかといえば、そう甘くもない。政策立案や許認可の権限は各省ごとの設置法で「各省大臣にある」と明記されている。特命相ができることといえば、関係大臣に勧告したり、内閣総理大臣に意見具申する程度にすぎない。官僚はそういう法律の枠組みを盾に抵抗する。
そこで政権が用意した、もう1つの仕掛けが内閣人事局である。こちらも力不足という批判はあるが、官僚は官邸の意向を気にするようになった。官邸が納得しない幹部人事は実現しないからだ。
人事権を実質的に握られ、かつ「ウチの大臣だけで政策は決まらない」となれば、官僚は官邸の意向を無視できなくなる。自分たちの力が弱くなった話だから、官僚はけっして自ら語らないが、いま永田町と霞が関で起きている事態はこういうことだ。
文/長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ):東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。規制改革会議委員。近著に『2020年 新聞は生き残れるか』(講談社)
※週刊ポスト2014年10月24日号